甲子園初の女子マネノッカーはネットの中傷に「怖くなることも...」 城東・永野悠菜を支えた監督と選手の言葉 (3ページ目)

  • 寺下友徳●取材・文 text by Terashita Tomonori
  • photo by Terashita Tomonori

●「想像以上に楽しんでできました」

 迎えた3月22日、東海大菅生戦当日。試合直前、甲子園の室内練習場の隅でひとり、素振りをしている永野さんを新治監督が呼び止め、選手たちに言った。

「バッティングゲージのひとつを永野様のノック練習用に献上せい!」

 監督の声にすぐさま呼応した12人の選手たち。その時に全員から声をかけてもらったことで、永野さんの緊張も徐々にほぐれていった。永野さんはこう振り返る。

「みんなは緊張していたのに、そんなそぶりも見せずに室内練習場で練習していました。でも、私はすぐに緊張が顔に出てしまう。だから、みんなを緊張させないためにひとりになろうとしていたんです。

 でも表に引っ張り出してもらったことで楽しくできました。『ひとりじゃないんやな』と思えたんです」

2022年12月、センバツ21世紀枠四国地区候補校表彰式にて2022年12月、センバツ21世紀枠四国地区候補校表彰式にてこの記事に関連する写真を見る そして、いよいよ時が来た。いざノックへ。そこで、永野さんを待っていたのは不思議な世界だった。

「1球目を打ったら落ち着いてきて、一番近くにいるキャッチャーの森本くんがいつも言ってくれる『ナイスノック』という声以外、何も聞こえなくなったんです。安心して、練習どおりにノックをしていました」

 大観衆の前であることを再度認識したのはノックを終えたあとだという。

「拍手をもらった時に観衆のみなさんに気づきました。こんなに大勢の方に応援していただいていたんだって。想像以上に楽しんでできました。これも練習どおりの雰囲気をつくってくれたみんなのおかげです」

 選手たちが異口同音で言ったのは「永野さんが練習どおりに打ってくれて落ち着けた」との言葉。そんなノックが推進力になったのか、昨秋の東京都大会王者の東海大菅生に2対5で惜敗したものの、先制点を奪うなど善戦した。

 ベンチには、「自然と笑顔になれていた」と話す永野さんの姿があった。

「こんなに短い9イニングは初めてでした。最終回になっても終わる感じはしなくて、ずっとみんなと一緒にプレーする感じでした。終わってみて、(スクールカラーの)青一色に染まったアルプススタンドを見て、幸せでした」

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