「令和の江川卓」が衝撃の全国デビュー。九州共立大1年・稲川竜汰の未来が楽しみすぎる

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro
  • photo by Ohtomo Yoshiyuki

 亜細亜大の優勝で幕を閉じた第71回全日本大学野球選手権大会。何人もの新星が現れたなか、ひときわまばゆい輝きを放った1年生がいた。名門・東北福祉大から11三振を奪い、完封勝利を挙げた稲川竜汰(九州共立大)である。

大学野球選手権で圧巻のピッチングを見せた九州共立大の稲川竜汰大学野球選手権で圧巻のピッチングを見せた九州共立大の稲川竜汰この記事に関連する写真を見る

「これはすごい投手になる」

 人生初の全国大会。人生初の神宮球場のマウンド。断続的に雨が降り続く悪コンディションをものともせず、稲川はスコアボードにゼロを刻み続けた。

 試合後には大勢のメディアに囲まれ、緊張からかややこわばった表情で「こんな結果を出せると思ってなかったのでうれしかったです」とコメントした。

 まぎれもない本心だろう。何しろ1年前の今ごろは、全力で腕を振ることすらままならない状態だったのだから。

 稲川は福岡県の折尾愛真出身だ。高校時代の実績はほとんどない。それでも、九州周辺からはこんな噂が聞こえてきた。

「折尾愛真に江川卓(元巨人)みたいなピッチャーがいる」

 隠し玉ドラフト候補を紹介する雑誌の企画で、稲川に会いに行った。身長182センチ、体重88キロの立派な体格に、いかにも無骨そうな顔つき。期待は一層高まったが、ブルペンで投球練習する稲川のボールは目測で130キロ台前半程度のスピードしかなかった。

 前年の8月に走塁練習中に左足首を骨折しており、以来「体重移動のタイミングがかみ合わない」と全力投球ができなくなっていたのだ。

 だが、「令和の江川卓」の片鱗ははっきりと見てとれた。球速は130キロちょっとでも、きれいなバックスピンのかかったボールはホップするように捕手のミットを突き上げた。当時、私は雑誌でこのように書いている。

<まるで大型のダンプカーが徐行運転をしているかのような不気味さ。全力で腕を振れば、とんでもないボールを投げるのではないか......。>(『野球太郎』No.039より)

 当時、監督を務めていた奥野博之さん(現・折尾愛真学園野球部GM)は「本当にいい時の稲川を、まだどの球団の方(スカウト)にも見ていただけていないんです」と惜しんだ。「本当にいい時」の投球内容を聞いて驚いた。2年夏の練習試合で6イニングを投げ、15奪三振をマークしたという。江川卓は1973年春のセンバツで9回20奪三振の快投を見せているが、「令和の江川卓」も本家に迫る奪三振ショーを演じていたのだ。

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