ドラフト上位候補、早稲田大・蛭間拓哉は「首長アバラ落とし」と「呼吸法」で三冠王を目指す (2ページ目)

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro
  • photo by Ohtomo Yoshiyuki

首長アバラ落としで奇跡の一発

 大学進学後、スポーツ科学部で学ぶ蛭間は貪欲に技術改善のためのヒントを探した。そこでヨガの呼吸法を知ったのだった。

 ヨガには「コア」という概念がある。解釈はさまざまだが、一般的には背骨や骨盤を支えるインナーマッスルを指す。蛭間はコアに全身の力をため、インパクトの瞬間に一気に放出するイメージでバットを振っているという。

 打席に入る前に、蛭間はしきりに胸のあたりを上から下へと手でなでる。このルーティンにも意味があるという。

「いくら肩の力を抜いても、胸のあたりに力が抜けていないこともあるので。手でさすってコアに落とすイメージです」

 蛭間はこの動作のことを「首長アバラ落とし」と呼んでいるという。いたって真剣な表情でプロレス技のような名称を告げるので、思わず吹き出してしまった。

 首長アバラ落としによって蛭間が輝いたのは大学2年秋の早慶戦だった。早稲田大は5勝3分、慶應義塾大は6勝2分と無敗同士で迎えた優勝決定シリーズ。11月7日の1回戦では、1対1で迎えた7回裏に蛭間は木澤尚文(現・ヤクルト)から勝ち越しの2ラン本塁打を放り込んだ。

 さらに勝ったほうが優勝となる翌2回戦に、球史に残る一打が飛び出した。1対2と早稲田大がビハインドで迎えた9回表、二死一塁の場面で蛭間に打順が回ってきた。

 蛭間がアウトになった瞬間に、慶應義塾大の優勝が決まる。打席に入る直前、早稲田大の小宮山悟監督は蛭間に「どの球種を張ってるんだ?」と聞いた。蛭間は「外の真っすぐを打ちます」と即答している。マウンドには左腕の生井惇己が立っており、蛭間の脳裏には「センターからライト方向に打つのは難しい」というイメージが浮かんでいた。

 だが、首長アバラ落としを経て打席に入ってしまえば、蛭間が意識するのは呼吸だけ。生井が初球に投じた肩口から入ってくる126キロのスライダーに、蛭間は反応する。高々と舞い上がった打球はバックスクリーンに飛び込んだ。

「あまり記憶がないんです。とにかく、すごい結果になったなと」

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