ドラフト候補不在も「魂の野球」で快進撃。和歌山東が創部初の甲子園に大前進 (2ページ目)
此上自身も主砲ながら送りバントや進塁打に徹するケースもあるが、「チームのためなので抵抗はありません」と語る。「弱者の兵法」と言えば聞こえはいいが、それだけで勝ち上がれるほど近畿大会は甘くない。和歌山東の戦いぶりには、技術を超えたたくましさがあった。
そもそも和歌山東は米原監督がゼロからつくり上げたチームだ。
前任の県和歌山商では2007年春に甲子園出場に導いたが、2010年に異動した和歌山東は軟式野球部から硬式野球部に移行したばかり。「最初の3年で卒業させたのは4人だけ」と米原監督は苦笑する。厳しい練習についてこられる選手が少なかったのだ。ボールは1ケースしかなく、周囲の助けを借りて少しずつ環境を整えていった。
「県和商の選手が2時間持つところ、東高の選手は15分しか集中力が持たない。だからだいぶ目線を下げました。最初は打つことばかり。楽しいことをずっとさせました」
ヤンチャ気質の選手に手を焼くことも珍しくなかった。それでも今年、近畿大会に出場すること4度目にして、初めてベスト4に進出。「自分たちの代は真面目な人間が多い」と此上が語るように、飛び抜けた個性派がいるわけではない学年が大仕事をやってのけた。それでも、米原監督は「この子たちだけの力では絶対にない」とOBや関係者への感謝を口にした。
大会中、米原監督は口癖のように「魂の野球」というフレーズを繰り返した。選手たちはその言葉に背中を押されるように、闘争心を前面に押し出して戦った。
県大会に先駆けて行なわれる9月の新人戦では、智辯和歌山に0対11で5回コールド負けを喫している。だが、此上は決して下を向かなかったという。
「監督さんから『1カ月で絶対に変われる』と言われていました。気持ちをき切らさんと、信じてやってきました」
試合中でも選手間で頻繁にコミュニケーションをと取るようになった。力をつけた選手たちは、1カ月後の県大会で智辯和歌山に競り勝つ。この試合を通して「やればできる」という思いが芽生えたと此上は証言する。
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