「むしろ何の問題があるのか」。女子野球の監督がトランスジェンダー公表で予想外だった周囲の反応

  • 森大樹●文・撮影 text & photo by Mori Daiki

女子野球・東海NEXUS
碇穂監督インタビュー 前編

 今年の夏はスポーツ界における「多様性」の扉が大きく開かれたと言っていいのではないだろうか。

 まずは多くの熱戦が繰り広げられた夏の甲子園。2年ぶりの開催ともうひとつ、例年と違うことがあった。甲子園球場で全国高校女子硬式野球選手権大会の決勝戦が行なわれたことだ。つい数年前、グラウンドに女子マネージャーがいるだけで問題視されていた頃から考えると、とてつもなく大きな変化である。

 そしてさまざまな問題を抱え、開催の賛否がわかれた東京五輪では、180人以上の選手がLGBTQ+であることを公表し、性転換を行なったトランスジェンダーの選手が初めて出場した。

 その流れに先立って、トランスジェンダーであることをカミングアウトした人物がいた。女子プロ野球1期生で、現在は社会人クラブチーム・東海NEXUS(ネクサス)の監督を務める碇穂(いかり・みのる/34歳)である。現役引退後はリーグに残り、愛知ディオーネの指揮を執ったのち、同球団のプロ撤退を機に現在のチームを立ち上げた。

女子野球チームの東海NEXUSで指揮を執る碇穂監督女子野球チームの東海NEXUSで指揮を執る碇穂監督この記事に関連する写真を見る 碇は今年4月、自身のSNSでトランスジェンダーであることを告白し、碇美穂子→碇穂に改名したと発表した。

 きっかけは女子プロ野球リーグを退団し、クラブチームの創設に伴って、一般企業に就職したことだった。カミングアウトすると決めていたわけではないが、今後の人生を見据えて「環境が大きく変わる今しか言うチャンスはない」と碇は考えた。

 もちろん周囲がどのような反応をするかわからない不安はあった。そこで碇はまず、東海NEXUSを協力・応援する企業に相談を持ちかけた。すると、思いがけないリアクションが返ってきたという。

「意外にどこの企業も、『むしろ何の問題があるのか』というくらいウェルカムでした。
当事者だからこそ、いろいろなことを考えすぎていたということですね。

 現在勤めているJR貨物の採用試験の際には、当時の東海支社長(現在は転勤)から『一番はじめに何かをやる人間はしんどいことも覚悟する必要がある。でもその代わり、本当に自分が生きたいように生きることで、その道ができる』と言っていただきました。道を切り拓くためにも、自分のためにも、生きたいように生きるという選択をすることができて、今は本当に楽しいです!」

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