偏差値72の福岡高校で最速149キロ。プロ注目の右腕は東大より狭き門を目指す

  • 菊地高弘●文・写真 text & photo by Kikuchi Takahiro

「福岡高校の井崎燦志郎(いざき・さんしろう)はいいですよ」

 福岡県の中学・高校野球の選手情報にかけては右に出る者はいないライターのトマスさんから、そんな話を聞いていた。

プロ注目の大型右腕、福岡高校の井崎燦志郎プロ注目の大型右腕、福岡高校の井崎燦志郎 だが、福岡高校は偏差値72と言われる進学校。修猷館、筑紫丘とともに「福岡市公立御三家」と呼ばれ、令和2年度は九州大学100人、京都大学13人、東京大学5人と難関国立大の合格者を輩出している。

 進学先の大学野球でチェックすればいいだろう。そう思いかけた私に、トマスさんから意外な情報がもたらされた。

「どうやら高卒でプロに行きたいみたいですよ」

 なぜ、学歴を捨ててまで保障のないプロ野球の世界に進みたいと思えるのか。がぜん興味が湧き、4月24日に福岡県営春日公園野球場で行なわれた福岡地区大会の筑陽学園戦を見に行くことにした。

 この日は春季九州大会の開幕日だったにもかかわらず、バックネット裏にはNPBスカウトの姿もあった。すでに11球団が井崎の視察を済ませ、なかにはGMや編成部長クラスまでグラウンドに訪れた球団もあるという。

 試合が始まる前から、背番号を見なくても井崎がどの選手かわかった。ベンチ前に集まる福岡高の選手のなかで、飛び抜けて大きい選手がいたのだ。

「1月に身長を計ったら188.5センチありました。去年の8月は186センチでした」

 試合後に井崎はそのように語っている。身長はまだ伸び続けている。冬場に下半身のトレーニングに励んだ成果もあり、体重は85キロまで増えた。

 福岡高のエースだけに、さぞ頭脳的な投球を見せるに違いない。そんな安易な予測はのっけから裏切られた。

 ステップ幅が狭く、やや上体の立った投球フォーム。豪快な腕の振りから放たれたボールは、登板1球目から春日球場のスピードガンで「142」と表示された。

 その後も、コンスタントに140キロ台の快速球を続ける。この日の最高球速は145キロで、捕手のミットを激しく叩く硬質のボールだった。スライダー、フォークなどの変化球もあるものの、投球の軸はあくまでもストレート。強豪相手でも「打てるものなら打ってみろ」と言わんばかりの、馬力を生かした力投型だった。

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