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偏差値72の福岡高校で最速149キロ。プロ注目の右腕は東大より狭き門を目指す (3ページ目)

  • 菊地高弘●文・写真 text & photo by Kikuchi Takahiro

 井崎の言う「山下投手」とは、昨夏の福岡独自大会で対戦した山下舜平大(福岡大大濠→オリックス)のことだ。その試合、5番・ライトで出場した井崎はドラフト1位でプロ入りする投手を肌で感じている。

 井崎に対して、山下はオールストレートで勝負してきた。のちに動画で山下のカーブを見た井崎は「打者の目線が上がってから落ちてくる、すごいボールでした」と山下のウイニングショットに圧倒されたという。

 その一方で、井崎はこんな不遜な言葉を放っている。

「真っすぐだけならそんなに速く感じませんでした」

 もちろん、総合力では山下に及ばない自覚はある。それでも、この言葉に井崎の投手としての強烈な自我と負けん気を感じずにはいられなかった。

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 そして井崎は驚きの事実を告げた。前週の練習試合で、NPBスカウトのスピードガンで自己最速の149キロを計測したというのだ。球速はあくまで評価指標のひとつにすぎないが、スピードにかけては高校球界屈指のレベルに近づいている。

 プロ志望を打ち出しつつも、日頃の授業もしっかりと受けている。学業成績を聞くと、井崎は「いい時で400人中200位くらいです」と語る。

 福岡高の小森裕造監督は、筑波大野球部を卒業している野球人だ。井崎の進路について聞くと、小森監督はこう答えた。

「まずはドラフト指名に値する選手になれるかを見極めないといけないと考えています。春からランナーとの駆け引きなど、ピッチング以外のところを課題にしてきて、少しずつよくなってきています。今日もヒットはほとんど打たれていないし、ポテンシャルはあります。井崎には『夏まで頑張って、プロに声をかけてもらえる選手になろう』と話しています」

 福岡高の野球部は昨年から髪型が自由になった。短髪でプレーする部員が多いチーム内にあって、井崎は数少ない丸刈りを貫いている。井崎は「長いと邪魔ですし、野球を頑張ろうかなと思って」と照れ臭そうに理由を語った。

 進学率ほぼ100パーセントの学校にあって、高卒で個人事業主になろうとしているのは井崎だけに違いない。しかも単純な倍率だけを考えれば、東大に入るよりもプロ野球選手になるほうがはるかに難しい道なのだ。

 エリート校に現れた異端児は目の前の課題に向き合い、極めて狭き門をくぐろうとしている。

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