「本当に甲子園を目指すことが正しいことなのか」強豪校の監督たちが語る指導の変化 (3ページ目)

  • 元永知宏●取材・文 text by Motonaga Tomohiro
  • photo by Kyodo News

【コロナ禍で変わった保護者との関係】

 西東京の独自大会で、日大三、国士舘などを撃破して準優勝した佼成学園だが、全体練習ができるようになったのは6月に入ってから。その間、藤田直毅監督はオンラインで部員たちと面談を行なった。

「37人ずついる3年生と2年生と、1カ月かけて話をしました。これまでを振り返って、今後をどうしたいのかを聞きました。このチームをどう思うかも。うちにはクレバーな選手が多くて、ひたすら落ち込むというのはいなかったね。『今後、どうなるかわからないけど、精一杯に練習して備えます』というトーンだった」

 何もかもが不透明で、誰もが先行きに不安を抱えていた。

「まだ、東京で独自大会が開催されるかどうかわからなかった。僕の中であったのは、大会と名がつくものがなかったとしても、みんながやりたいところまで練習でも何でもやって、ちゃんと高校野球にケリをつけて、高校野球を終わらせるという思いだけ。

 どんな言葉を重ねても、指導者にできることには限りがある。指導者には次があるけど、3年生にはもうないから。一緒にいてあげる、寄り添うことしかできないよね」

 6月1日に西東京、東東京の独自大会が7月18日から開催されることが決まった。それでも、藤田監督の中には恐怖感があった。

「正直、怖いよね。大会当日になって陽性者が出るかもしれない。こちらが大丈夫でも、相手がかかるかもしれない。どこで大会がストップしても不思議じゃないからね。コロナウイルスの感染が止まったわけではないので」

 野球をしている場合なのか? そんな心ない意見を耳にすることもある。

「生徒たちは、誰にも文句が言えないからかわいそうなんだよね。『野球どころじゃないだろ』と言われればそのとおり。でも、それにすべてを賭けてきた生徒からすれば、泣き言のひとつも言いたくなるよ」

 高校野球の指導者になって20年あまり。これまで正しいと信じてきたものはたくさんあるが、今回のコロナ禍で心境に変化もあった。

「保護者との関係は変わりましたね。昔は、練習を見にくる親はほとんどいなかった。これまでは、遠征も、週末の練習でも送り迎えは一切禁止で、『荷物は本人に持たせてほしい』と言っていたしね」

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