東北大会で公立校が強豪を次々撃破。
急成長したエースが魂の500球 (2ページ目)
新チームが始動した8月。谷木をエースに任命した平塚監督から「球種を増やさないと抑えられないぞ」とスライダーの握りを教わった。すると、ものの1週間でコツをつかみ、実戦でも操れるようになった。同じように、チェンジアップもあっという間にマスターした。
同時に投球フォームも再構築。だが、それは"改善"というより、苦肉の策に近かった。谷木には左足を内側に踏み出す、いわゆる"インステップ"の欠点があった。制球力に苦しむなど、どちらかといえば矯正の対象となるのだが、平塚監督はその形を生かすことにした。
「本当は『やめろ』と言ってたんですが......ただ、秋の県大会が目前に迫っていたもんですから、そのタイミングでは大きく変えられませんでした」
谷木が平塚監督と相談して踏み切ったのは、それまでのワインドアップからセットポジションに変更することだった。これが思いのほかハマったと、谷木は言う。
「ワインドアップの時はどうしても体の開きが早くなってコントロールが安定しなかったんですけど、セットにしてからはよくなりました。インステップもいずれは修正したいですけど、今はそこまで気になりません」
新たな変化球の習得と無駄をなくした投球フォーム。これが東北大会で生きた。
「ストレートと同じ腕の振りで投げる」というスライダーは、緩やかに大きく変化するのが特徴だ。谷木や平塚監督は「できればカットボールのように速い変化にしたい」と不満げだが、初戦で学法石川(福島)を5安打2失点に封じた。
2017年夏まで仙台育英を指揮していた佐々木順一朗監督は「ちょっと厄介なボールでしたね」とスライダーに手を焼いたことを明かした。
そして、東北大会における柴田のハイライトともいえる2回戦の八戸学院光星(青森)戦では、強気の投球を貫いた。
「気持ちで負けないように、インコースを多く使って攻めることができました」
谷木は3死球を与えながらも、最後まで臆することなくインコースを攻め、優勝候補の一角に挙げられていた強豪相手に2失点完投を演じた。
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