甲子園なき名将たちの苦悩。独自大会は「勝利」か「3年起用」優先か (2ページ目)

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro
  • photo by Ohtomo Yoshiyuki

 といっても、31人の選手が同時にベンチに入れば、ソーシャルディスタンスが保てない。「一度にベンチに入るのは15名まで」という特別規定が設けられたため、試合中に換気のいいベンチ裏やブルペンには背番号をつけた常総学院の選手たちの姿が多く見られた。

 この試合で、常総学院はなんと30人の選手を起用している。常総学院といえば木内幸男監督時代から起用選手数の多いチームとして知られたが、30人も起用したのはもちろん史上最多だそうだ。

 当時の佐々木力監督(大会後に退任)は、「3年生のための試合になってしまったところはあります」と頭をかきつつ、その意図をこう語った。

「今年はコロナ禍で試合機会が少なくて、3年生のなかには大学で野球を続けたくてもこのままでは続けられない子もいたんです。大学のなかにはたとえ1アウト、1打席であっても実績としてあげてくださるところもあります。なので、今日はそんな選手を優先的に出した結果、こうなりました」

 30人が出たといっても、登板した6人の投手は全員球速が130キロを超えるなどレベルは高かった。試合は6対0で常総学院が勝利したが、コールドにならない点差でもきっちりリードを守りきっているところに、名門の選手層の厚さを感じずにはいられない。

 昨夏は茨城代表として甲子園に出場した霞ヶ浦も、力のある下級生をベンチから外して全員3年生で初戦を戦った。土浦二に中盤まで攻めあぐんだものの、10対0の6回コールドで大勝。だが、試合後の高橋祐二監督の表情は険しかった。

「最初から最後まで、相手のミスで点をもらったようなもの。攻めの形がまったくできていませんでした」

 そして高橋監督は、首をひねりながらこう続けた。

「3年生を使ってあげないといけないという気持ちで試合している時点で、いい緊張感にならないのかもしれません。この大会は3年生だけで戦いたいと言っていましたが、戦ってみて『それは正しいことではないのかも?』と思うようになりました」

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