弟がドラ6でヤクルト入団。八戸学院大・武岡大聖が抱えた嫉妬と決意
幼い頃からの夢を叶えると、弟は涙を流しながら兄に抱きついた。
「おめでとう......」
なんとか言葉を絞り出したが、心に渦巻くネガティブな感情を拭いきることはできなかった。八戸学院大の武岡大聖(たいせい/3年)は、弟・龍世(りゅうせい)のプロ入りをなぜか心から祝福することができなかった。
プロ注目のスラッガーへと成長した八戸学院大の武岡大聖 10月17日、プロ野球ドラフト会議。八戸学院光星(青森)に通う弟が、東京ヤクルトスワローズから6位指名を受けた。名前が呼び上げられた瞬間、その場に集まっていた者は一斉に歓声を上げた。だが兄は、その現実を素直に受け入れられなかった。
「正直、弟よりも先に(プロへ)行きたかったという思いがあったので、うれしい気持ちの半面、悔しい部分もあって......もしかしたら、悔しさのほうが強かったかもしれないです」
弟に嫉妬するなんて、それがどれだけ恥ずかしいことかわかっていた。それでも複雑な感情をコントロールできずにいた。そんな自分を情けなくも感じた。
兄の大聖が野球を始めたのは、小学6年の時だった。
「それまでは父のソフトボールを見に行くぐらいで、とくにスポーツはやっていませんでした。きっかけは、このまま中学校に行っても、『何もすることないな......』と感じてしまい、ならば『野球を始めてみようかな』と、最初は軽い気持ちでした。一度練習に行ったのですが、『やっぱり嫌やな』って。最初はそう感じたのを今でも覚えています(笑)」
当時、大聖はどちらかと言えばぽっちゃり体型だったが、野球を始めると徐々に体が引き締まり、秘めていた才能が開花し始めた。
野球を始めて3カ月が経ったある日、大聖はバッティング練習でライト後方にある校舎に直撃する特大の当たりを放った。
「本当にたまたまでした。でも、それから一気に『野球は楽しいな』と感じるようになったんです」
体力測定ではあらゆる種目で規格外の数字を叩き出した。50m走は、小学6年生の子どもにしては神がかり的なタイムである6秒8。ソフトボール投げも小学6年生の平均値をはるかに超える72mを記録した。特筆すべきは背筋力で、徳島県の小学生のなかでトップの数値をマーク。県内では"怪童"として、ちょっと名の知れた存在になった。
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