奥川恭伸に投げ勝ったスーパー1年。
打ってもよしで「二刀流」もイケる

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro
  • photo by Kikuchi Takahiro

 今年の6月、高校野球界にセンセーショナルなニュースが流れた。

──奥川恭伸(星稜)が1年生投手に投げ負けた。

 春のセンバツで履正社(大阪)を完璧に封じ込め、のちに夏の甲子園では準優勝に導き、ドラフト会議で3球団から1位指名を受けることになる超大物。その奥川が練習試合とはいえ、1年生投手に土をつけられたことは話題になった。

 1年生の名前は田村俊介という。愛工大名電(愛知)に入学したばかりの左腕で、星稜(石川)相手に7回を投げ、4安打無失点と封じ込んだ。試合は4対1で愛工大名電が勝っている。

中学時代から評判の選手だった愛工大名電の1年生・田村俊介中学時代から評判の選手だった愛工大名電の1年生・田村俊介 田村は中学では明徳義塾中(高知)に所属し、関戸康介(大阪桐蔭)と二枚看板を張った。中学3年夏には、横浜スタジアムで開催される全日本少年軟式野球大会で準優勝に輝いたエリートである。

 愛工大名電に入学すると星稜をはじめ強豪を相手に好投。今夏の愛知大会では1年生ながら背番号1を背負った。

 岐阜県で開催された秋季東海大会1回戦・三重戦で、初めて田村を見る機会に恵まれた。まずはその体に圧倒された。

「なんという太ももをしているんだ......

 長良川球場の一塁側ブルペンに立つ田村を見て、その分厚い太ももに釘付けになった。高校野球で鍛え込んでいる上級生ならわかるが、田村はまだ入学して半年あまり。身長は176センチとさほど高くないが、体重は85キロ。重厚な肉体はとても1年生とは思えない。

 だが、田村を指導する愛工大名電の倉野光生監督は意外なことを教えてくれた。

「田村は高校に入学してから10数キロ絞ったんですよ。それも本人が自分で意識して減らしたんです」

 田村本人によると、「9月に明徳義塾中から地元に戻って、あまり練習できずに95キロくらいまで増えてしまった」という。

 明徳義塾中の選手は明徳義塾高に進むのが既定路線だが、田村は「新しい環境に挑戦したかった」と別の道を歩むことを決断した。全国大会が終わった後に実家の京都に戻り、進学先に選んだのは愛工大名電だった。その理由を田村は説明する。

「名電は『超攻撃野球』をモットーにしていたので......。バッティングを磨きたいと思って、名電を志望しました」

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