軽井沢高校が見せた成長の夏。3年生が先輩女子マネの思いをつなげた (3ページ目)

  • 清水岳志●文 text by Shimizu Takeshi
  • photo by Shimizu Takeshi

 試合後の囲み取材で、山崎は泣いていた。

「去年も1点差で......悔いはないですけど、あと一歩でした。先輩たちがいたら頼ることもあったと思うけど、先輩たちがいなかったからこそ強くなれたと思う。人生って、野球よりも苦しいことばかり。この経験は成長の糧になると思います。小宮山さんには......負けてしまったんですが、やりきったので『ありがとう』と言いたいです」

 内藤は号泣していた。

「このチームでよかった。3年間、ものすごく楽しかった。初心者で入ったのに、(山崎)佑作たちは文句を言うことなく......4番も任されましたし、悔いなく終われました。小宮山さんには『ごめん、すみません』と。でも『やりきったよ。最後、いいゲームができました』と伝えたいです」

 監督の佐藤は、悔しさと満足感が入り混じっていた。

「こういう展開をイメージしていたんですが、力不足ですね。春先はエラーも出ましたが、よくぞここまで成長してくれました」

 そして佐藤にとっては、別の思いが交錯した試合だった。小宮山さんと一緒にポスターをつくり、グラウンド整備していた元監督の漆原伸也は2017年3月に別の高校に異動し、野球部の部長をしていたのだが、2018年の暮れに練習中に倒れ、帰らぬ人となった。佐藤にとって漆原は高校の1年上の先輩にあたる。

「漆原さんがあきらめずにつないでくれて、今の軽井沢高校がある。ご家族に『頑張ってるよ』と届けられればいいなと思っていました。私にとってこの夏は、その思いも強くありました。6月が漆原さんの誕生日で......その時は行けなかったので、ひと段落したらお墓参りに行きます」

 まもなく、夏の甲子園大会が始まる。地方大会を勝ち抜いた全国の精鋭たちが集まり、大観衆のなか、熱い戦いが繰り広げられる。長野大会の初戦で負けた軽井沢高校の存在など、知らない人がほとんどだろう。それでも佐藤は「こういう高校野球もいいもんですよ」と胸を張る。

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