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佐々木朗希が163キロよりも
目指すべきもの。「急がば回れ」の夏 (3ページ目)

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro
  • photo by Kyodo News

 指導を放棄しているように聞こえるかもしれないが、実態はまるで違う。國保監督は筑波大でスポーツ科学を学び、故障予防のための知識も豊富な指導者である。あるNPBスカウトも「あの監督さんなら酷使もされないだろうし安心です」と語っていたことがある。

 國保監督は春の公式戦中にも、こう語っている。

「いろいろな方々から指導いただいても、自分の感覚の上でプレーしないと。誰かの感覚を入れてプレーすると、頭(思考)と体(動作)のズレが出てきてしまう。そのことは注意しなさいと、選手にはいつも言っています」

 第三者があれやこれやと口出しすることで本人が自分の感覚に疑問を抱き、試行錯誤するうちに元のパフォーマンスが発揮できなくなる......。スポーツ界ではそんな例がごまんとある。自分自身の感覚を研ぎ澄まし、最適な動きを模索する。そんな選手を國保監督は育成しているのだ。

 プロで長く活躍したいなら、強度のコントロールは遅かれ早かれ取り組むべき課題でもある。「163キロ」を見たい野球ファンにとっては物足りないかもしれないが、佐々木の将来にとっても甲子園を本気で狙うチームにとっても、「急がば回れ」の夏になる。

 一戸戦の試合後、連戦になる4回戦以降の佐々木の起用法を問われた國保監督は、こう語った。

「試合の間隔が空けばいいなと思います。......雨がたくさん降ってほしいです。運営は大変でしょうが」

 終始、硬い表情で受け答えしていた國保監督だったが、その時、初めて報道陣の輪のなかで笑いが広がった。

 同日、今春のセンバツ出場校で優勝候補の盛岡大付が一関工に3対4で敗れる波乱が起きた。お互いに勝ち進めば準決勝で対戦することになっていたが、大船渡にとっては昨秋の準決勝で敗れた相手である。日頃から速球マシンを打ち込んでいる強打線が売りで、昨秋は佐々木に10安打を浴びせていた。

 さらに國保監督の祈りが通じたのか、翌19日は雨天順延となり日程がずれた。一戸戦で93球を投げた佐々木にとって、恵みの雨になっただろう。

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