根尾、藤原も苦戦。大阪桐蔭を抑えた「小さなエース」の気になる進路
大会前はまったくのノーマーク
この夏の甲子園で優勝候補の大本命だった大阪桐蔭(大阪)を苦しめたのは、171センチ64キロの小さな投手だった。共に今年のドラフトで1位指名を受けた根尾昂、藤原恭大に最後まで自分のバッティングをさせなかった済美(愛媛)の山口直哉だ。
夏の甲子園で済美をベスト4に導いた山口 大阪桐蔭の春夏連覇に注目が集まった2018年夏の甲子園。最大の焦点は、秋のドラフト会議で4人が指名を受けることになるスター揃いのチームをどこが下すのか、だった。
大会前、前年に続いて甲子園出場を果たした済美のエース・山口の存在を気に留める人はほとんどいなかった。150キロを超えるスピードボールがあるわけでも、"魔球"を持っているわけでもない。昨夏の甲子園ではベンチ入りできず、ボールボーイ(補助員)を務めた小柄なピッチャーはまったくのノーマーク。大阪桐蔭の強打者たちを苦しめることなど、本人も想像できなかっただろう。
その山口のピッチングが注目されたのは、2回戦の星稜(石川)戦だった。石川大会5試合で53得点を挙げた打線は強力で、複数の投手を揃える投手陣は予選で1点も取られなかった。大阪桐蔭の対抗馬として優勝候補に挙げられていた星稜に、初回で5点を取られた時点で、ほとんどの人は「勝負あった......」と思っただろう。
しかし、済美の選手たちはあきらめなかった。1-7で迎えた8回裏に8点を奪って試合をひっくり返し、同点とされた後のタイブレークの末に、延長13回裏の逆転満塁ホームランで勝利をつかんだ。最後までマウンドにいた山口が投げたのは184球。劇的な結末と共に、その投球数が話題になった。
星稜戦で184球投げても痛みはなし
その星稜戦を山口が振り返る。
「初回に5点も取られたことは予想外だったので焦っていました。だけど2回以降は、野手が打ってくれると信じて投げました。初回にあれだけ打たれたから、逆に開き直ることができたんだと思います。追加点を取られた後も、『1点ずつ取り返そう』という野手の思いが伝わってきたので、これ以上は離されないように投げました」
8回裏の済美の攻撃は、「奇跡」という言葉がふさわしいほどの驚異的なものだった。5本の単打を集めて5点を奪い、九番・政吉完哉のスリーランホームランで2点のリードを奪った。あと3つアウトを取れば"大逆転劇"が完成。しかし、山口が星稜打線に2点を奪われて追いつかれた。
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