斬新なトレーニング理論から誕生。イチローも試してビックリのスパイク (4ページ目)

  • 井上幸太●文 text by Inoue Kota

 毎年シーズンオフには、神戸で自主トレを行なうイチロー。その練習パートナーとして携わる藤本博史氏(元オリックス)がビモロスパイクを自費で購入し、練習で着用していたのだ。長年の練習相手が見せる、例年とは違う動きに「藤本、いつもと動きが違うね」と興味を示した。

 藤本氏から借りたビモロスパイクを着用し、ダッシュを行なうと「急にどこかから追い風が吹いた」と形容するほどの推進力に驚きを隠せなかったという。続けて、来シーズンを見据えて用意していた各社のサンプルに順次履き替えてのフリー打撃を行なったが、外野で打球を処理した藤本氏が明確に判別できるほど、ビモロスパイク着用時の打球は鋭く、高く舞い上がった。

「藤本くんから借りたビモロスパイクを使った後に、私に連絡をくれた。藤本くんが自主的に購入していたことにも驚いただけでなく、イチローくんは基本的に他の選手から道具を借りることはありませんので、二重の意味でびっくりしましたね」

 この一件がきっかけとなり、「公式戦でビモロスパイクを使いたい」と打診を受ける。そこから、急ピッチでイチロー専用の金型の作成をスタートさせた。専用スパイクが完成したのは、2015年1月29日に行なわれた、マーリンズ入団会見の数日前。完成までの練習は、市販品のソールに手を加えた特殊なものを使用していた。このエピソードからも"急転直下"の契約だったことが覗える。

 イチローの使用による影響は絶大だった。先述の通り、「イチローの足元を支える秘密兵器」として各方面に認知され、各球界で見かけることが珍しくなくなった。プロ球界では、岩瀬仁紀、山井大介(中日)、鳥谷敬(阪神)、内川聖一、上林誠知(ソフトバンク)、山口俊(巨人)らが今シーズンの公式戦で着用している。メーカー契約の関係で公式戦では使用できないが、「練習だけでも使いたい」と話す選手も多くいるという。

 100回大会を迎えた夏の甲子園でも、ビモロスパイクを着用し、試合後は専用のスパイクケースに「甲子園の土」を詰め込む球児の姿があった。また、各チーム全体のカラーオーダーもあるが「選手がビモロスパイクを自由に使えるように」とチームスパイクの統一カラーを、販売中の「白×紺」に変更した強豪大学も存在する。

「パフォーマンスアップのために、是が非でも使いたい」。多くの選手に支持され、球界で広まり続けているビモロスパイクについて、小山氏は笑顔で言う。

「昔から『広める』という言葉は、あまり好きではないんです。『いい物は自然と広まっていく』。こう信じています。スパイクは、走攻守全てのプレーに関わる唯一の野球道具。そのスパイクが『道具を越えた"武器"と呼べる存在になってほしい』と製作したのが、ビモロスパイクです。ビモロスパイクと出会い、ひとりでも多くの選手がいいパフォーマンスを試合で見せてくれることはもちろん、故障のない野球人生を送ってくれたら最高ですね」

■小山裕史(こやま・やすし)
博士(人間科学)(早稲田大学)
高崎健康福祉大学 保健医療学部理学療法学科 教授
鳥取大学客員教授(医学部)歴任

1994年に初動負荷理論を発表。動作改善、故障改善などで多くのプロスポーツ選手、オリンピック選手の指導に従事。

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