2018.08.23

881球の熱投。金足農・
吉田輝星を襲う「甲子園ハイ」の怖さ

  • 安倍昌彦●文 text by Abe Masahiko
  • 岡沢克郎●写真 photo by Okazawa Katsuro

 夏の甲子園100回大会は、大阪桐蔭が史上初となる2度目の春夏連覇を達成し、幕を閉じた。その大阪桐蔭に惜しくも決勝で敗れたが、金足農の戦いぶりは見事だった。なかでも、金足農のエース・吉田輝星(こうせい)の奮闘は、驚きとともに尊敬の念を抱いた。

 秋田県大会では全5試合をひとりで投げ抜き、甲子園でも決勝戦の5回に降板するまでたったひとりで金足農のマウンドを守ってきたのだ。

夏の甲子園で6試合すべてに先発し、881球を投げた金足農の吉田輝星 球速は、最速150キロにまで達し、スライダー、チェンジアップ、スプリット、カーブ……と、自己申告で「8種類」という変化球の精度も、高校生のレベルをはるかに超えていた。

 なによりすばらしいのがボールの質だ。高めの球がホップして見える投手は毎年何人か現れるが、吉田のように低めに”生命力”を帯びた快速球を投げられる高校球児はそういるものではない。私の記憶では、吉田以前となると駒大苫小牧の田中将大(現・ヤンキース)しか思い出せない。

 また、投げるだけではない。けん制、フィールディング……ピッチャーに必要な要素を、吉田はすべて兼ね備えていた。ある試合で、投手と一塁の間に絶妙なバントを決めた打者が、吉田の素早いフィールディングで二塁封殺され、一塁ベース上で「信じられない……」といった表情を浮かべていた。そういうことをやってのけるのが、吉田という投手なのだ。

 これほど甲子園のマウンドで存在感を漂わせながら投げ通したエースは、これまでにいただろうか。吉田が甲子園で投じた881球は、多くの人の記憶に深く刻まれることだろう。

 ただ、これからの吉田に不安がないわけではない。

 2015年夏の甲子園で、仙台育英のエースとして6試合すべてに登板(うち完投が5試合)した佐藤世那(現・オリックス)が、こんな話をしてくれたことがある。

「甲子園のマウンドって、不思議なところなんですよ。いくら投げても全然疲れとか感じないんですよ」