駒苫vs早実、伝説の決勝から10年。野球を諦めた男たちの「88会」

  • 菊地高弘●取材・写真 text&photo by Kikuchi Takahiro
  • 片平裕志●取材協力 cooperation by Katahira Yuji

 学生野球の聖地・明治神宮野球場がある明治神宮外苑の敷地内には、軟式野球グラウンドが6面もある。その一角で、草野球に興じる若者たちがいた。

 あえなくキャッチャーフライに倒れたチームメイトに、ベンチに座っていた藤咲敏輝が痛烈なヤジを飛ばす。

「ここは甲子園じゃないんだよ!」

 藤咲は筆者に向かい合うと、冗談めかしてこう言った。

「アイツら、まだ夢の中にいるんですよ。もう10年も経っているのに、過去の栄光に浸っているんすよ」

今回、神宮外苑に集まった「ノンプロ88会」のメンバーたち今回、神宮外苑に集まった「ノンプロ88会」のメンバーたち

 キャッチャーフライに倒れた打者・後藤貴司は苦笑いを浮かべながらベンチに戻ってきた。後藤はかつて、甲子園で「伝説の試合」を戦った選手だった。

 2006年夏、早稲田実業(西東京)と駒大苫小牧(南北海道)の甲子園決勝戦。早実・斎藤佑樹、駒大苫小牧・田中将大の壮絶な投げ合いは延長15回を戦い抜いても決着がつかず、翌日の再試合までもつれこんだ。再試合は4対3で早実が制し、24イニングを投げ抜いた斎藤は「ハンカチ王子」と呼ばれ、大フィーバーとなった。後藤は早実の4番打者として、全国制覇を果たしたメンバーだった。

 早実卒業後も早稲田大、日本製紙石巻とプレーを続け、社会人3年目で引退した。今は日本製紙石巻の社員として、東京で勤務している。

「25歳までにプロに行けなかったらあきらめようと思っていました。大学、社会人と『実績があれば行けるんじゃないか?』と思いながらも結果が出なくて、社会人2年目の後半くらいから引退を考えていました。社業に入ってから半月くらいは未練がありましたけど、もう決めたことなので。気持ちの切り替えは早めにできたと思います」

 そんな話を聞いていると、「ゴン!」という鈍い打球音がこだました。ある左打者のバットの根元に当たったような打球が、ライトの頭上を軽々と越えていったのだ。

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