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【高校野球】打倒「私学4強」の思いが、レベルアップを生む (3ページ目)

  • 益田佑一●写真 photo by Masuda Yuichi

 しかし、豊川は私学4強の壁を突き崩すことができず、中京大中京に4-6で敗れた。森福は2年続けて決勝に進み、2年続けてあと一歩のところで敗れたのだ。森福が当時を振り返ってこう話す。

「あれは何だったんですかね……何が足りなかったのかなんて、今でもわかりません。名門に対する名前負けというのも少しはあったかもしれません。ただ、僕が社会人に進んでからのチームメイトには甲子園に出た選手もいました。その中のひとりの家に遊びに行ったとき、彼のお父さんに『ウチの息子は甲子園に行って、満足してしまった。満足したから野球が終わってしまった。でも、森福くんは甲子園に行けなかった悔しさをバネにして、這い上がってきたんだね』って言ってもらったことがあるんです。確かに僕も、もしどちらかの決勝で勝って甲子園に行っていたら、それで満足して、今の自分はなかったのかな、なんて思ったりすることもありますね」

 森福は今年もホークスのブルペンを支えている。森福のコールに、ドームには大歓声が沸き起こる。福岡のファンは、去年の奇跡“森福の11球”を、今も忘れていない。

 今年も夏の甲子園に出場する49の代表校が出揃った。同時に、今年もあと一歩で甲子園に届かなかった高校が49校あった。決勝で敗れた49の高校の中には、甲子園に出場する高校と遜色ない実力の持ち主がいくつもあっただろう。それでも地方大会の決勝戦での勝敗は、高校球児を、夢を叶えたものと夢を叶えることができなかったものに分けてしまう。あまりにも残酷な勝負の世界――。

 しかし、地方大会で散った4000近い高校の中には、未来の浅尾拓也や森福允彦がいる。高校時代は甲子園の常連校に敗れ去って夢を叶えることができなかったとしても、その後の野球人生でリベンジを果たすチャンスがまだ残されていることを、彼らの活躍が教えてくれている。

 今年の愛知県大会は、決勝で愛工大名電と東邦が激突し、愛工大名電が甲子園出場を決めている。浅尾の母校、常滑は愛知県大会の初戦でコールド負け、森福の豊川はベスト8まで進んで、ドラゴンズのクローザー、岩瀬仁紀の母校、西尾東に敗れて、夏を終えた。

 西尾東は愛知県のベスト4まで進んで、東邦に敗れた。西尾東は岩瀬の母校とはいえ、去年の秋には県大会にも進めなかった公立校だ。果たして、西尾東 が見た私学4強とは──今度は、西尾へ行ってみようか。確か、うなぎの養殖とお茶が有名なはず。うな丼には熱いお茶がよく合うからなぁ。

著者プロフィール

  • 石田雄太

    石田雄太 (いしだ・ゆうた)

    1964年、愛知県生まれ。青山学院大学卒業後、NHKに入局し、92年からフリーに。『イチローイズム』(集英社)など、多数の書籍を執筆。また、テレビやラジオのスポーツ番組の構成や演出などでも活躍している

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