【高校野球】愛知の高校野球界を支える「私学4強」
愛知県大会決勝で東邦を破り、5年ぶりの選手権出場を果たした愛工大名電のエース・浜田フルスイング観戦道 vol.21(前編)
ヤンキースに移籍したイチローがレッドソックスとの"伝統の一戦"でプレイした実感について問われ、こうコメントしていた。
「高校時代にはありました。中京(現・中京大中京)ですね。(愛工大名電と中京の関係は)高校では目新しい、歴史的には(ヤンキースとレッドソックスに比べれば)新しかったですけど、それでも、そういう空気はバッチバチ、ありましたね」
イチローを育んだ、愛知県の高校野球。大阪府と甲子園の春夏合わせた優勝回数1位を争う愛知県には、"私学4強"という言葉がある。
名古屋市にある『中京大中京』『愛工大名電』『東邦』『享栄』の4校のことだ。今年も愛知県の決勝は愛工大名電と東邦が激突し、イチローの母校でもある愛工大名電が夏の甲子園出場を決めている。
私学4強というフレーズを耳にして、蘇ってきた名勝負がある。
あれは、容赦ない陽射しが照りつける暑い、暑い一日だった。
今から29年前、1983年の夏――名古屋の高校野球の聖地、熱田球場には、入り切れない観客が外まで溢れていた。なぜならこの日は、夏の甲子園出場を懸けて、愛知 の"2強"が決勝で激突したからだった。そして、それぞれのチームには、ドラフト1位間違いなしという超高校級の怪物が君臨していた。
2年の夏に中京のエースとして甲子園に現れ、準決勝までの5試合、わずか3失点という圧巻のピッチングで中京をベスト4まで導いた豪腕、野中徹博。
3年春のセンバツでいきなりホームランを放ったかと思ったら、その一打を含めて8安打(うち3本がホームラン)、3四球の11打席連続出塁を記録した享栄の藤王康晴。
野中対藤王――この年の愛知県大会の決勝は、甲子園の決勝でもおかしくない黄金カードだった。のちに阪急(現オリックス)の1位指名を受けた野中と、中日の1位指名を受けた藤王の直接対決は、愛知県のみならず、全国的な注目を集めた。
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著者プロフィール
石田雄太 (いしだ・ゆうた)
1964年、愛知県生まれ。青山学院大学卒業後、NHKに入局し、92年からフリーに。『イチローイズム』(集英社)など、多数の書籍を執筆。また、テレビやラジオのスポーツ番組の構成や演出などでも活躍している