【新車のツボ108】ジャガーXE試乗レポート (2ページ目)
XEは走りもジャガーそのもの。身のこなしは軽やか。"スポーティ"を標榜するわりに、動きはゴリゴリというよりヒラヒラという感じで、操作系を軽いタッチで統一するのも昔ながらの英国風味がジャガーのツボだ。
とくにスルーッと絹のように滑らかなのに、ピタッとリアルに決まるステアリングの手応えは、もう絶品というほかない。エンジンは今流行のダウンサイジングターボの4気筒だが、マニア好みの高音サウンドと右足直結系のレスポンスで、額面以上に速い感覚を絶妙に醸し出すことに成功している。このクラスでは比較的ボディが大きめなこともあってか、アルミ多用でも絶対的には超軽量とはいえないのだが、運転感覚はとにかく軽いのだ。
それにしても、前記のXFや、最近もホメちぎったFタイプ(第98回参照)もそうだが、今のジャガーはデザインだけでなく、走りのツボについてもスジが一本通っていて、どれに乗ってもジャガー......なのがステキ。ステアリングを今風にギュッと握るのではなく、指で軽くつまむように優しく操作するとドンピシャにクルマと一体化できるのが、ドイツ御三家と明らかにちがうツボ。ジャガーと同じくドイツ御三家に対する挑戦者を自認するブランドでも、日本のレクサスやスウェーデンのボルボあたりが、どちらかというと、年々ドイツ化しているのとは好対照である。
現在のジャガーはインド最大財閥のタタグループ傘下にある。タタもクルマをつくっているが、タタ車は簡素な低価格車と商用車が主力であり、高級乗用車専門のジャガーと技術を共通化するようなレベルにない。以前の親会社だったフォードがよくも悪くも、ジャガーにカネもクチも(そして、ときには部品などのモノも)出したのに対して、タタはジャガーに「カネは出すけど、クチは出さない」のが基本姿勢らしい。
ジャガーは戦前からある老舗ブランドだが、ほかの英国メーカー同様に何度となく経営危機におちいり、親会社も二転三転した。ただ、世界の自動車産業には「英国車こそクルマの元祖」という、どこかサッカー界に似たリスペクトがあって、他国資本になっても、英国車ブランドのクルマづくりの根幹がイジり壊された例は少ないのが面白い。そんな紆余曲折を経て、理想的なパトロンを得た最新ジャガーも、本当にツボなクルマばかりがそろう。そのなかでもXEは今もっとも手頃(といっても、けっこう高いけど)で、イケてるジャガーである。
【スペック】
ジャガーXE 2.5ポートフォリオ
全長×全幅×全高:4680×1850×1415mm
ホールベース:2835mm
車両重量:1640kg
エンジン:直列4気筒DOHCターボ・1998cc
最高出力:240ps/5500rpm
変速機:8AT
JC08モード燃費:12.5km/L
乗車定員:5名
車両本体価格:642万円
プロフィール
佐野弘宗 (さの・ひろむね)
1968年生まれ。新潟県出身。自動車評論家。上智大学を卒業後、㈱ネコ・パブリッシングに入社。『Car MAGAZINE』編集部を経て、フリーに。現在、『Car MAGAZINE』『モーターファン別冊』『ENGINE』『週刊プレイボーイ』『web CG』など、専門誌・一般紙・WEBを問わず幅広く活躍中。http://monkey-pro.com/
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