【新車のツボ107】スバル・クロスオーバー7試乗レポート
現在、スバルで最も新しい車名は今年6月に発売されたクロスオーバー7である。ただ、カタログなどに記される車名ロゴでは冒頭に小さくEXIGA(=エクシーガ)と書かれるので、このクルマの正式車名は"エクシーガ・クロスオーバー7"である......といった回りくどい説明をしなくても、その実体は既存のエクシーガ(第21回参照)のプチ整形グルマであることを知っている人は多いはずだ。
クロスオーバー7のモトとなったエクシーガは、スバルがつくった唯一の本格ミニバンであり、2008年に発売された。見た目はレガシィ・ツーリングワゴン(第36回参照)をちょっと背高にしただけ......のエクシーガは、ミニバンとしては背が低めで、リアドアが普通のスイング式であることが特徴だった。
エクシーガはとても良くできたミニバンではあった。見た目から想像しづらいほど、3列目まで健康的な居住空間だったし、現在の目で見ても、エクシーガの走りの良さは際立っていて、クルマ好きのツボをもっとも刺激するミニバンでもあった。
ただ、エクシーガ発売当時、ミニバンはすでに淘汰の時代に入っており、ミニバン市場には「背高スライドドアのタイプ以外は売れない」という傾向がハッキリ出つつあった。スバルとしては「走りのスバルのミニバンはこれしかない!」という強い思いで開発したのだろうが、エクシーガはデビューした瞬間から「今さら?」の感があったのも否定できない。事実、エクシーガは一部マニアから高い評価を受けたものの、ベストセラーランキング上位に顔を出すことはほとんどなかった。
繰り返しになるが、そんなエクシーガをハヤリのSUV風味にプチ整形して、ちょっとだけ地上高をカサ上げしたのがクロスオーバー7である。興味深いのは、クロスオーバー7の発売と同時に従来型エクシーガは廃止されて、スバルはこれを「SUV風のミニバン」ではなく「7人乗りのSUV」として売り出したことである。戸籍上(?)の正式名に「エクシーガ」という出自を残すのは言い訳みたいなもので、車体に貼られるバッジにはエクシーガの文字すらないのだ。
こうしたプチ整形はクルマ業界にはけっこう昔からある手法で、通常は、悪い意味での"哀愁"がただようことが多い。骨太な思想のクルマをありがたがる傾向の強いマニア筋には、このようなナンチャッテ感の強いクルマは、本来はツボの対極に位置する。
しかし、実際のクロスオーバー7はなんか魅力的で、どうにも憎めない。もともとのエクシーガがステーションワゴンに毛が生えたスタイルだったせいか、こうしたSUV風の化粧直しがやけに似合っていて、ツボを心地よく刺激されるのはワタシだけではあるまい。
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著者プロフィール
佐野弘宗 (さの・ひろむね)
1968年生まれ。新潟県出身。自動車評論家。上智大学を卒業後、㈱ネコ・パブリッシングに入社。『Car MAGAZINE』編集部を経て、フリーに。現在、『Car MAGAZINE』『モーターファン別冊』『ENGINE』『週刊プレイボーイ』『web CG』など、専門誌・一般紙・WEBを問わず幅広く活躍中。http://monkey-pro.com/