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【新車のツボ53】
スズキ・スペーシア 試乗レポート (2ページ目)

  • 佐野弘宗+Sano Hiromune+●取材・文・写真 text&photo by

 スペーシアの場合は、ただティッシュが固定できるだけでなく、それが助手席前のこの場所にあって、取り出し口にフタがつく。「そこがツボ」とKさんはいう。Kさんの緻密な調査の結果「運転席から軽く手が届いて、不要なときは生活感を匂わせない」という女性の声なき願いが導き出されたのだという。

 このティッシュ以外にも「ドアノブに触るだけで解錠からオープンまでワンタッチの電動スライドドア(=赤ちゃんを抱えた若いお母さんには必須)」や「ドア内蔵の引き出し式サンシェード(=軽初)」など、スペーシアにある女性のツボは枚挙にいとまがない。このスタイリングにも「マニア系でもイカツイ系でもなく、しかしワザとらしいマスコット系でもない」ことに細心の配慮がゆきとどく。

 また、スペーシアのドア内装パネル中央には、隠れたポケットもある。それはスマホには小さいがガラケーは入るか......程度の大きさのポケットなのだが、オトコの私には「いったい、ここにナニを入れるんだ!?」である。するとKさんは「タオルハンカチとか携帯用のお菓子にちょうどいいんですよ」と自慢顔。そうですか。でも私にはまったく未知の世界。普段はクルマについてエラソーに語る私だが、今回は出る幕なし。すみません。

 しかしだ。女性のツボだかなんだか知らんが、クルマは走ってナンボ......とクルマオタクの私は思うのだが、スペーシアはじつによく走る。女性ウケが今ひとつだったパレットも、ちょっとマニアな視点での走り味がよかったのが美点だが、スペーシアはそれもきっちり継承する。

 もっとも、それは別にキーキーとタイヤを鳴らすような走り......という意味ではない。この種の大容量系は重心が高いために、カーブでカクンと速く傾いて、それを抑えようとして乗り心地まで悪くなって......と、自然に心地よく走らせるのが難しいのだが、さすがスズキ、そこのサジ加減が素晴らしくうまい。スペーシアは燃費のために大幅に軽量化されたこともあって、傾き加減がなんとも自然で潤い感もあって、安定性も乗り心地も、同ジャンルではトップのデキといっていい。

 こういう癒し系のこなしで、タイヤの接地感覚もきちんと伝わるから、オタクは「なかなかやるじゃん!」とニンマリ、クルマに興味のない女性は「運転しやすくて疲れないわ」と自然と納得するタイプである。

 私のようなクルマオタクは単純だ。走りがよければ、クルマのすべてが好ましく見えてくる。運転席からティッシュをスーッと引っ張り出しては「ああ便利だなあ」と、私もすっかりスペーシアにツボを握られてしまった。

【スペック】
スズキ・スペーシアT
全長×全幅×全高:3395×1475×1735mm
ホイールベース:2425mm
車両重量:870kg
エンジン:直列3 気筒DOHCターボ・658cc
最高出力:170ps/6600rpm
最大トルク:202Nm/4450rpm
変速機:CVT
JC08モード燃費:26.0km/L
乗車定員:4 名
車両本体価格:141.75万円

著者プロフィール

  • 佐野弘宗

    佐野弘宗 (さの・ひろむね)

    1968年生まれ。新潟県出身。自動車評論家。上智大学を卒業後、㈱ネコ・パブリッシングに入社。『Car MAGAZINE』編集部を経て、フリーに。現在、『Car MAGAZINE』『モーターファン別冊』『ENGINE』『週刊プレイボーイ』『web CG』など、専門誌・一般紙・WEBを問わず幅広く活躍中。http://monkey-pro.com/

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