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【新車のツボ51】
プジョー5008 試乗レポート

  • 佐野弘宗+Sano Hiromune+●取材・文・写真 text&photo by

 日本で買える輸入車のミニバンは最近すっかり少なくなったが、欧米メーカーにミニバンがないわけではない。量産メーカーならほぼ例外なく本国で1~2車種のミニバンをもつ。ただ、独身者が好んでミニバンに乗る文化があるのは日本だけ。海外でのミニバンはあくまで、それを必要とする人だけに向けたニッチ商品で、日本のように1社が何種ものミニバンを揃えることはない。

 それから、ミニバンはグローバル商品の正反対......すなわち各地の風土やニーズに特化した土着化が進んでいることも、輸入ミニバンが少ない理由である。アメリカには今も日本メーカーのミニバンはあるのだが、それらはすべてアメリカ専用商品で、日本とは根本的なスケール感からして異なる(=デカい)。そのいっぽうで、日本にある膨大な数の国産ミニバンはほとんど日本専用。ミニバンは世界中のメーカーがつくっていながら、それぞれがガラパゴス化しているのだ。

 フランスからやってきたプジョー5008は日本人から見ると、ミニバンとしては背が低く、リアドアがスイング式(=非スライドドア)なのが特徴だ。日本でいうと、初代オデッセイ、現在だとスバル・エクシーガに似たパッケージ。今の日本では背の高いワンボックス型が圧倒的な主流で、この種のスタイルはすでに人気薄だが、欧州ではこれぞ典型的なミニバンスタイル。日本のようなワンボックス型を乗用車として使うなんて想像だにしないらしい。繰り返すが、ミニバンは世界中が総ガラパゴスなのである。

 ボディサイズのわりにサードシートが狭いのも、5008の日本風ではない点だ。そこに座るのは身長178cmデブ体形のワタシにはちょっとした罰ゲーム。狭いだけでなく、床が高いのでいわゆる"体育座り"の姿勢になってしまう。かわりにサードシートを収納すると、まるでシートなんぞ存在しなかったかのように低いフロアの荷室が出現する。

 「どんなに小さくても6~7人乗りの機能は妥協しない」が常識の最近の日本ではあまり見かけない、「3列目は完全に緊急用」とスパッと割り切った設計思想だ。また、そうしたシートアレンジの操作力がやけに重かったり、セカンドシートが3分割だったりするも、5008は日本の常識とちょっと異なる。

 5008のミニバン機能は、日本人から見るとよくも悪くも独特である。そんな5008をここで取り上げるのは、もちろん、そういう些末(?)な問題なんぞ消し飛ぶほどに、ステキな走りがワタシのツボを突いたからだ。

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著者プロフィール

  • 佐野弘宗

    佐野弘宗 (さの・ひろむね)

    1968年生まれ。新潟県出身。自動車評論家。上智大学を卒業後、㈱ネコ・パブリッシングに入社。『Car MAGAZINE』編集部を経て、フリーに。現在、『Car MAGAZINE』『モーターファン別冊』『ENGINE』『週刊プレイボーイ』『web CG』など、専門誌・一般紙・WEBを問わず幅広く活躍中。http://monkey-pro.com/

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