大橋悠依が東京五輪競泳でふたつの金メダルを獲得して変わったこと、変わらなかったこととは? (2ページ目)
【「やっぱり人間的に成長しないと水泳での成長も止まってしまう」】
日本の夏季五輪史上初めて同一大会で2つの金メダルを手にした女性アスリートとして、歴史に名を刻んだ大橋さん。その爽やかなイメージから、ファッション誌のイベントに登場することもあったが、だからといって、華やかな世界へ足を踏み入れることは考えていなかったという。
――東京五輪で金メダリストとなり、水泳やスポーツ以外の世界からも注目される存在となりましたが、その当時も引退後も、メディア出演をはじめ表に出る仕事の依頼などは来なかったのですか。
大橋 それは結構いただきましたし、今でもあります。すごくありがいですが、今の自分には、シンプルに時間がありません。すごい無理をすればできるのでしょうけど体力ないんで。
私にとって第一優先は大学院での勉強です。シンプルに私が勉強したくて通っているし、その部分を中途半端にしてしまっては大学側にも失礼という思いもあります。(人前に出る仕事に)興味がなくはないですけど、優先順位の問題です。
――日本代表のチームメイト、特に男子選手は「競技=仕事」と認識している社会人選手も多かったと思います。また、長く競技者として続ける美学がある一方、日本代表になかなか届かない社会人選手もいます。競泳の場合、それぞれ事情が違うと思いますが、現役生活を長く続けることについてはどのように捉えていますか。
大橋 日本代表に入ることは競技者としていいことですし、例えば、鈴木聡美さん(ミキハウス、34歳)は年齢を重ねても自己ベストを更新しています。もう、本当にすごい。長く続けることで、その裏にある練習量、探究心を持って目標に向かっていく考え方が、多くの選手に浸透していくことはすごくいいなと思います。
ただ反面、社会人の年齢になって、何か(ほかに)やることがないから競技を続けていくことは、個人的にはあまりいい傾向ではないと思います。
――競泳の場合は、春先の日本選手権でその1年が決まってしまいますからね。特に社会人ですと、そこで日本代表に入らないと、ほかの競技と違ってリーグ戦があったりするわけではないので、過ごし方が難しくなると思います。
例えばちょっと無理しないと代表クラスまでは届かないレベルの社会人選手、あるいは卒業後も競技継続を模索している大学生に、アドバイスはありますか。
大橋 私自身、その立場を経験していないので、アドバイスとして言うことは難しいと思います。あくまで自分がそうだったらという話でいうと、私なら必ず出社して、その会社の業務に携わる日を作ると思います。選手としての活動経費の精算のためだけに出社するのではなく、サポートしていただいている会社の業務に可能な限り関わって、自分の会社のことを知る立場で、競技活動をすると思います。
私自身、平井(伯昌)先生の教えがすごく染みついていて、やっぱり人間的に成長しないと水泳での成長も止まってしまうという考え方があります。ですので、自分の引き出しを増やす、知識を増やすとか、そういう機会を定期的に持ったほうがいいかなと思います。
――特に会社の名前で出ている選手は、そのほうが会社側の競技に対する理解も深まりますし、選手側も社会経験の意味でプラスになると思います。
大橋 それは社会人だけでなく、大学生でも同じだと考えています。競泳は、学校練習の選手、学校練習半分、クラブ練習半分の選手、もしくはほぼクラブ練習など、選手によってさまざまな練習環境で活動していると思いますが、例えばクラブ練習の選手が大学の水泳部に対抗戦やインカレ前だけ顔を出すのではなく、それ以外の時でも足を運んで近況を伝えたり、お互いを知る機会を増やしていったほうがいいと思います。
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