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【箱根駅伝2026】例年とはひと味違う青学大4年生 主将・黒田朝日を軸に寮長・佐藤有一、主務・徳澄遼仁らが醸し出す空気感とは―― (2ページ目)

  • 生島 淳●取材・文 text by Ikushima Jun

【「やさしい学年」が盛り上げてきた1年の集大成】

 今回の箱根駅伝に臨む黒田をはじめとした4年生は、「やさしい学年」だと原監督が話してくれたことがある。

「好青年たちばかりです。でも、それが競技力にとってプラスかどうかは本人たち次第です。だから、新チームが発足した時、私はハッキリ言いました。箱根の優勝メンバー6人が抜けて、このままでは勝てないよ、と」

 4年生は、監督からの「挑戦」に応えつつあると思う。青学大には主将、副主将、寮長、主務といった部の運営に携わる四役がいるが、寮長の佐藤有一、主務の徳澄といった4年生と話すと、「やさしさ」を失わずにチームを引っ張ってきたことが感じられる。

 寮長である佐藤は、自分の仕事をこう説明してくれた。

「春の時期は、1年生に寮での仕事、ルールを伝えていきます。それと、トイレットペーパーがなくなれば、寮母の美穂さんに伝えて、調達してもらいます。競技以外の寮生活の全般を見ていく感じです」

 佐藤は3年生まで駅伝に出るチャンスをつかめなかったが、卒業後の競技続行を見据え、3年の終わりから競技力を伸ばしてきた。

「前回の箱根のあとに行なわれた2月の宮古島駅伝で、2区を走りました。そうしたら監督から『すごいよ、佐藤』と言ってもらって。うれしかったです。そこからはとにかく競技会に出て、自分の力を高めてきました」

 ラストイヤーに懸ける思いが、箱根駅伝16人のメンバー入りにつながった。

 そして主務の徳澄の仕事ぶりには頭が下がる。主務は毎日の練習の運営だけでなく、メディアへの対応など、大人と接する仕事も多い。部の強化スケジュールを見ながらの調整力は、もはや企業でも即戦力になることは間違いない−−と思わせるほどだ。

 夏合宿の取材などで感じるのは、主務の面倒見のよさ。2年生の折田壮太、飯田翔大、そして1年生の椙山一颯(徳澄にとっては九州学院の後輩でもある)といった将来の青学大を担う選手たちからは、「徳澄さんには本当にお世話になっていて」という言葉が聞かれた。そしてなにより、主務が後輩たちの可能性を信じていた。

 11月22日に行なわれたMARCH対抗戦では、「1年生の上野山(拳士朗)が面白いですね」と聞いていたら、3組目でトップとなり、箱根メンバーにも入ってきた。主務としての観察眼が磨かれていることが伝わってきた。

 黒田朝日という「核」が真ん中にあり、周囲の4年生たちがやさしさでチームを盛り上げようとしている。ここ数年、競争力がチーム力の向上につながっていた青学大だが、今年の4年生たちは、少しばかり違った雰囲気をまとっている。

 2026年箱根駅伝、青山学院大はどんな色を見せてくれるだろうか。4年生たちの働きに注目したい。

著者プロフィール

  • 生島 淳

    生島 淳 (いくしま・じゅん)

    スポーツジャーナリスト。1967年宮城県気仙沼市生まれ。早稲田大学卒業後、博報堂に入社。勤務しながら執筆を始め、1999年に独立。ラグビーW杯、五輪ともに7度の取材経験を誇る一方、歌舞伎、講談では神田伯山など、伝統芸能の原稿も手掛ける。最新刊に「箱根駅伝に魅せられて」(角川新書)。その他に「箱根駅伝ナイン・ストーリーズ」(文春文庫)、「エディー・ジョーンズとの対話 コーチングとは信じること」(文藝春秋)など。Xアカウント @meganedo

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