東京2025世界陸上、男子100m代表争いで急浮上の守祐陽 大東大コーチが語る「高速ピッチの強み+体の成長=結果」 (4ページ目)
【今年の日本選手権準決勝が心理的伏線に】
「でも、日本選手権の準決勝3組1位になった走りの感じで、『これは10秒0くらいだな』というのはありました。決勝は7番に沈みましたが、それはまだ体の操作にまだ波があるから。ただ、波がある選手は爆発力もあるので、それは魅力ですね。同じ場所でジリジリ行ったり来たりしないというか、ちょっと疲れが出たらすごく悪くてもいい時はものすごくいいというところがあるのが、彼の魅力だと思っています」(佐藤コーチ)
そんななか、高校2年生の清水空跳(星稜高)の10秒00は大きな刺激になった。シニアの選手たちにとってみればその記録は目標と言うよりも、超えなければいけないものになり、心の中にあった枷も吹き飛ばされたような心境になったはずだ。
「特に清水くんの10秒00のことは話さなかったですけど、守にとって大きかったのは清水くんと直接日本選手権の準決勝で走り、『この子にはちゃんと勝てるな』という感覚を得られたことです。桐生くんにも先着していて、『気持ちよくいければ桐生さんにも勝てるレースができる』という感覚が本人のなかにあった。だから清水くんが10秒00、桐生くんが9秒99で走っても、『それなら俺が走れないわけはないじゃん』と思っていたのだろうなと思います。実際に走る力を備えていた意味では、日本選手権の準決勝で勝ったのがよかったのかもしれません」
4×100mリレーに関しては「2走と4走はやっているから直線は得意だと思うが、後半は強い自信がある」と守は言うが、佐藤コーチは「コーナーも猛烈なピッチで曲がってくるし、200mができるから直線も伸びやかに走り、ラスト20~30mもメチャクチャ追い込めるし速い。どこでも走れると思う」と評価するように、貴重な戦力になりそうだ。
東京2025世界陸上・男子100mの3枠の代表争いは、日本陸連が定めた内定優先事項に照らし合わせていくと、8月24日までの指定期間内に参加標準記録(10秒00)突破と7月の日本選手権優勝の桐生が確実、そして富士北麓で桐生に続き参加標準記録を突破した日本選手権7位の守が2番手につける形となっている。3番手は9秒96を出しているサニブラウン・ハキーム(東レ)、10秒00の清水は4番手の位置につけ、世界ランキングでは圏内にいる栁田は5番手となり、逆転で個人代表に選ばれるためにはサニブラウンの記録を上回る必要がある。
一方で4×100mリレーを考えればこの5人に加え、200mで19秒台を視野に入れる鵜澤飛羽(JAL)もおり、鉄壁な布陣になりそうだ。
清水のインターハイの10秒00で火がついたなかでの桐生、守のふたりの快走は、銀メダルを獲得した2016年リオデジャネイロ五輪を彷彿させる新たな活況を作り出す気配を見せる。
著者プロフィール
折山淑美 (おりやま・としみ)
スポーツジャーナリスト。1953年、長野県生まれ。1992年のバルセロナ大会から五輪取材を始め、夏季・冬季ともに多数の大会をリポートしている。フィギュアスケート取材は1994年リレハンメル五輪からスタートし、2010年代はシニアデビュー後の羽生結弦の歩みを丹念に追う。
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