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早大エース・山口智規が日本選手権で快進撃 主戦場の5000m出場を見送り、センゴ(1500m)で勝負した理由とは (3ページ目)

  • 和田悟志●取材・文・写真 text & photo by Wada Satoshi

【読みどおりの展開でつかんだ大きな手応え】

 そして、最終日の決勝でも積極的なレースが光った。

「中距離のセオリーどおり、1周目を速く入って、2、3周目でペースを落としてしまうと、(ほかの選手に)力を溜められて、ラストで負けてしまうと思ったので、2、3周目を上げていこうっていうプランでした」

 しかし、そう易々(やすやす)とそのプランどおりのレースをさせてはもらえなかった。スタート直後から先頭を走ったものの、すぐ後ろには元日本記録保持者の荒井七海(Honda)がいて、「後ろにつかれてプレッシャーがあって、2周目できつくなってしまった」と、下がらざるをえなかった。

「500mで動かなかった時点で、もう勝てないなと思った」

 レース中のこんな心境を明かしたように、700mで荒井に先頭を譲ると、山口は5番手まで下がった。

 だが、そのまま簡単に引き下がらないのが今季の山口だ。

「後ろで力を溜めて、少しでも上の順位を狙おうと思いました」

 プランを切り替えて終盤に備えた。そして残り500m。山口は勝負に出た。

「最低限できることはしようと思っていました。引っ張るだけで終わりたくはなかった。勝つとしたら、あそこでいくしかなかった。ダメでもいってやろうと思いました」

 山口が仕掛けると、レースも動いた。飯澤、森田、高橋佑輔(山陽特殊製鋼)が反応し、優勝争いは4人に絞られた。

 しかし、飯澤が残り200mで先頭に立ち、さらに残り150mでスパートすると、山口はついていけなかった。

「ラスト100mの勝負になると思う。自分の100%を出しきれるように、そこまで我慢できれば」と、予選のレース後に話していたが、最後のホームストレート勝負には持ち込めなかった。

 また、こうも話していた。

「3分35秒から38秒ぐらいのレースになると思う。どんなレースになっても飯澤さんとかはラスト1周(400m)を55秒で上がってくる。その55秒というところを意識して練習しました」

 その読みどおりの展開になったが、ラスト1周は58秒かかった。もっとも、55秒でカバーできていれば、日本記録(3分35秒42)相当のタイムが出ていたことになるが、そこまで力が残っていなかった。

 飯澤の後方で繰り広げられた2位争いでも、山口は、一度は最後尾に下がった。それでも最後のホームストレートで追い抜いて2位でフィニッシュした。そのスパート力が中距離選手相手でも通用することを示した。

「オーストラリアの選手も、1500mもハーフマラソンも走れるような練習をしていました。今の世界はオールラウンダーが活躍する時代になっていますので、視野を広げてトラックを強化しながら箱根駅伝でも勝負できるようにと思っています」

 専門外の種目で大きな手応えを得られたのだろう。人一倍負けん気の強い山口だが、今回ばかりは2位に終わっても、走り終えて晴れやかな表情だった(そう見えた)。

 今回の日本選手権での山口の挑戦は、観る者も心を踊らせたが、当の山口が一番楽しんでいたのかもしれない。

著者プロフィール

  • 和田悟志

    和田悟志 (わだ・さとし)

    1980年生まれ、福島県出身。大学在学中から箱根駅伝のテレビ中継に選手情報というポジションで携わる。その後、出版社勤務を経てフリーランスに。陸上競技やDoスポーツとしてのランニングを中心に取材・執筆をしている。

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