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箱根駅伝 駒澤大・佐藤圭汰、復活の区間新の舞台裏「9月の時点では絶望しかなかった」 (2ページ目)

  • 佐藤俊●取材・文 text by Sato Shun

【箱根復路当日の状態は70%ぐらい】

 駅伝シーズンに入り、出雲駅伝や全日本大学駅伝など大事なレースを控えている時期でもある。篠原倖太朗(4年)と並ぶエースである佐藤にかかる期待は大きく、自分自身もそれを理解していたはず。そういう時期のケガの再発は、どれほど大きな精神的ダメージを与えただろう。ただし、佐藤はひるまなかった。ケガが起きた理由を徹底的に探った。

「同じところを二度もケガしたというのは、根本的な問題があると思ったんです。自分のフォームを見てもらって、ケガをした原因として、(尻回りの)殿筋あたりの筋肉が弱いというのがわかったんです。そこを鍛えつつ、足の接地(の仕方)を変えて、腕振りも以前は右腕をダイナミックに振っていたんですけど、コンパクトにしてバランスよく振るようにしたんです。その結果、ラクにスピードを出せるフォームになりました。いろんな人の力を借りて改善することができたので、ケガをする前よりも成長できたと思います」

 とはいえ、走れない状況でそうした地道なトレーニングを続けていたわけで、不安が頭のなかを駆け巡ることも多かった。そんななか、彼に復帰に向けてのモチベーションを保たせたのは、周囲の人やチームメイトからの励ましと、世界のトップレベルの選手たちの動画だった。

「世界のトップ選手へのあこがれが自分を強くしてくれたと思っています。自分は(パリ五輪の5000ⅿ金メダリストである)ノルウェーのヤコブ(・インゲブリクトセン)選手が好きなので、その選手が活躍している世界陸上とかの動画を見ていました。自分もこういう選手になりたいし、ケガしたからといって腐っていたらこういう選手になれないので、がんばってやるしかないとモチベーションを維持していました」

 11月には本格的な練習を再開し、1月3日、なんとか7区のスタートラインに立った。2カ月の突貫工事で箱根に間に合わせてきたため、いくらポテンシャルの高い佐藤といえども、スタート前は少なからず不安と緊張があった。

「状態は70%ぐらいで、20kmも走れるのかなという思いもあったんですが、往路が終わった時、(6区の)伊藤と『自分たちでいい流れを作らないといけない』という話をしたんです。もう覚悟を決めて、絶対にやってやるという気持ちで走り出しました。ただ、練習不足のせいか、18km過ぎからペースが上がらなくなって......。10カ月ぶりの実戦だったので、最後はきつかったですね」

 それでも、約10カ月ぶりのレースで異次元のタイムをたたき出した。第96回大会で明治大の阿部弘輝(現・住友電工)が出した1時間0140秒の区間記録を57秒も更新する1時間0043秒の区間新記録を樹立し、チームを勢いづけた。この区間新は今後、エースレベルが走らない限り、そう簡単にやぶられることはないだろう。他校にあらためて「佐藤、強し」と思わせたことも含めて、非常にインパクトが大きい走りだった。

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