東洋大ルーキー・松井海斗が全日本大学駅伝選考会で証明した「鉄紺の強さ」 高校時代に誓った箱根駅伝への思い (2ページ目)

  • 杉園昌之●取材・文 text by Sugizono Masayuki

【憧れた「鉄紺」、今はその起爆剤に】

 まだ丸刈り頭だった頃の激走は、記憶に新しい。2023年12月、全国高校駅伝でも気迫あふれるラストスパートを見せ、大きなインパクトを残している。エースが集まる10km区間の1区で、5000mの日本人高校歴代2位の記録(13分28秒78)を持つ須磨学園の折田壮太(現・青山学院大1年)と抜きつ抜かれつのデッドヒートを最後まで繰り広げた。区間賞はライバルに譲ったが、区間2位となった松井の粘りも圧巻だった。レース後、埼玉栄高校のエースだった男は、晴れ晴れとした顔で振り返っていた。

「意地もありましたが、"その1秒をけずりだせ"ば、チームのゴールタイムも速くなります。後続のためにも折田に付いていく選択をしました」

 あまりに有名なキャッチフレーズが口をついて出た。東洋大に受け継がれる伝統のスピリッツである。松井は中学生の頃からずっと憧れてきたのだ。

 第96回大会(2020年)の箱根駅伝を見て、胸が熱くなったことをよく覚えている。目が釘づけになったのは花の2区。当時、東洋大の大黒柱だった相澤晃(現・旭化成)は、東京国際大の伊藤達彦(現・Honda)と激しい競り合いを制し、区間賞を獲得。まさしくエースの走りだった。

「相澤さんの走りが純粋にかっこよくて。あのときから、僕もいつか鉄紺のタスキで走りたいと思うようになりました」

 高校最後の大会を終えたあと、夢と希望にあふれた17歳の松井は、冬の京都で大学での大きな目標も明かしていた。

「箱根のどの区間を走っても、区間新記録を出したいです」

 あれから半年。東洋大で先輩たちにもまれ、メキメキと力をつけてきた。練習の速いペースに付いていけず、脱落しそうになると、4年生の梅崎蓮、小林亮太らが声をかけてくれるという。松井は苦しくても歯を食いしばり、自らを奮い立たせている。

「ここで1年生が頑張らないで、どうするんだと」

 ただ無理をしているわけではない。厳しく追い込むこともあれば、個人に合った調整も許されている。たとえ1年生でも、それは変わらない。松井自身、レースの1週間前はジョグのみでコンディションを整えている。

「僕はそっちのほうが本番で走れるタイプなので。そういうところも上級生たちが理解を示してくれています。1年生だから遠慮して走れないより、堂々と走れるほうがいいと思います」

 5月に行なわれた関東インカレの5000mでも13分51秒57と自己ベストを更新し、5位入賞(日本人3位)。トラックシーズンでコンスタントに結果を残し、秋からの駅伝シーズンに向けてアピールを続けている。

「3年生、4年生たちを食ってやるぞ、という気持ちはあります」

 相模原でチームに勢いをつけた男は、上級生たちのハートにも火をつけそうな勢いまである。今季、東洋大がスローガンに掲げる"鉄紺の覚醒"を促す起爆剤になるかもしれない。

著者プロフィール

東洋大学 梅崎蓮 & 石田洸介 「鉄紺」フォトギャラリー

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