ドルーリー朱瑛里の走りをベテラン五輪コーチが考察「完成度の高いフォームは変わらず。将来的には5000mでも見たい」 (3ページ目)
【1500m、5000mで世界を目指してほしい】
そんなドルーリーは将来、どの方向に向かっていくのだろうか。
現在、取り組んでいる中距離は、かつては日本が世界に通用しない種目と言われてきた。しかし、東京五輪では女子1500mに日本勢として田中、卜部蘭(積水化学)が史上初めて出場し、田中は8位入賞。ポイント制による世界ランキング導入で世界大会出場の可能性が広がってきている。山下コーチは、その中距離での活躍に期待を寄せる一方、ドルーリーの潜在能力は長距離でも十分発揮されると見ている。
「将来的には、800m、1500mだけでなく、5000mぐらいまでは見てみたいと思わせる選手です。レース、特に終盤で走りを切り替える能力(ペースアップ)がどれほど備わっているかは現時点ではわかりませんが、田中希実さんも、高校時代は切り替えがすごく長けている印象があったわけではありません。でも、最近の田中さんが高校時代の印象と全然違うことは、周知のとおりです。ですので、基礎的なスピードさえあれば、そこを磨くことで特化することはできると考えています。
可能性を感じさせる選手なので‥‥一発決勝の1万mに比べると世界大会も1500mのほうがターゲットナンバー(出場枠数)も多く、ランキングで勝負していくと比較的出やすいのかもしれない。彼女の走りの特性から見ても、1500mから5000mが狙いやすいと思うし、楽しみです」
高校卒業後の進路は気になるところだ。専門的なトレーニングを積む年齢期にどこで過ごすのかという観点から見れば、「国内の大学、実業団のみならず、思いきって海外もひとつの方法かなとも思ったりします」と山下コーチは言う。
「当面の目標は中学3年の時の都道府県駅伝の走りを、トラックでもきっちりできるようにすることでしょう。何かを変えるというより、『あのよさが失われないように』というようなイメージです。これから専門的なトレーニングを取り入れたり、練習量が増えてきたりすると、どこかしらケガをするようにもなると思います。そうなった時に若干、体の使い方を少し変えなければいけない時が来るかもしれないですけど、そこをどう乗り越えていくか。
ただ、今は地元の岡山県の環境のなかで、自身が望むような高校生活を送れていることは、彼女の将来にとって、大きいと思います」
【解説者Profile】山下佐知子(やました・さちこ)/鳥取県出身。鳥取大学卒業後、教職の道に進むが、陸上競技への思いを募らせ、京セラに入社し実業団選手に。マラソンランナーとして活躍を見せ、1991年東京世界選手権で銀メダルを獲得、翌92年バルセロナ五輪では4位入賞を果たした。現役引退後、指導者となり、第一生命監督時代には2009年ベルリン世界陸上選手権銀メダル、12年ロンドン五輪代表の尾崎好美、2016年リオデジャネイロ五輪マラソン代表の田中智美、同5000m代表の上原美幸、そしてパリ五輪代表の鈴木優花ら多くの長距離ランナーを育て上げている。現在は、第一生命グループ女子陸上競技部エグゼクティブアドバイザー兼特任コーチを務めている。
著者プロフィール
折山淑美 (おりやま・としみ)
スポーツジャーナリスト。1953年、長野県生まれ。1992年のバルセロナ大会から五輪取材を始め、夏季・冬季ともに多数の大会をリポートしている。フィギュアスケート取材は1994年リレハンメル五輪からスタートし、2010年代はシニアデビュー後の羽生結弦の歩みを丹念に追う。
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