ドルーリー朱瑛里の走りをベテラン五輪コーチが考察「完成度の高いフォームは変わらず。将来的には5000mでも見たい」 (2ページ目)
【田中希実との違いと他種目への取り組み】
4月の金栗記念では憧れの田中希実と同じレースに出場 photo by アフロ 山下コーチが「完璧」と評した昨年1月の都道府県駅伝の快走は、厚底シューズとの相性のよさも補助的な要素としてあったと言うが、ドルーリーの持ち味はロードのみならず、トラックでも十分に発揮されている。
4月13日の金栗記念1500mでは、ドルーリー自身が憧れを抱く田中希実(New Balance)と同じ組で出場。力の差は明らかだったが、その時のふたりの走りから、それぞれの特徴が見えるという。
「田中さんの走り方は、ダイナミックに見えるわけではなく『いいフォームだな』というような見え方はしないんです。ドルーリーさんのほうが『教科書的なフォーム』と言えますが、田中さんは、強い(地面からの)反発を瞬時に受けて前に進むための絶妙な骨盤の前傾具合を維持して走っているので、ブレが少ない。だから、ランニングエコノミー(*)で言えば、田中さんに比べると、ドルーリーさんはまだまだこれからの伸びしろと言えます。
ただ、これは田中さんに比べて、という高いレベルでの話なので、課題という捉え方ではありません。将来的に筋力をつけていくと、もっと面白いと思います」
*ある特定の速度に対して、どれだけ少ない酸素摂取量で走れるかを示す指標。数字が少ないほうが効率のよい走りがなされている。
また、ドルーリーが出場する種目を絞りきってしまうのではなく、他種目に挑戦する姿勢、中距離に軸を置く取り組み方をプラスに評価している。
「岡山県高校総体も800m、1500mに出ただけではなくマイルリレー(4×400m)に出ていたのは、チームメイトと一緒に協力し合う要素も含めて、いいなと思います。仮に今、3000mをメインにして力をつけ、シニアと5000mを走れば15分10~20秒台は出るかもしれません。でも、今すぐにそっちに行くのではなく、400mや800mも走っているところに、私は非常に好感を持ちました。
やはり、スピードの要素を培う部分を大事にしていると推測しています。高校生くらいの時には400mも800mも、駅伝シーズンになれば5〜6キロも走ってみる。出力の特性が異なる距離に取り組めば、筋肉の使い方も異なってくる。変に偏って専門的にならないほうがいいと考えているからです」
強い選手の場合、指導する側も「これぐらいは、できて当たり前」と基準が高くなり、選手本人も、出る以上は勝つことを目指してしまう。そうなると自然と練習量が増えすぎ、気づけば負荷がかかりすぎていることがあると、山下コーチは言う。
「本当に(状態が)悪くなって初めて、『あ、これはちょっとtoo much(やり過ぎ)だったのかな』とわかることも多いので、そこを指導者がどうブレーキをかけるか。選手本人は放っておいたら勝ちたいし、記録を出したいので『これぐらいは当たり前。もっとやらなくては』と思ってしまう。
ただ、やりすぎはよくないけど、腱とか筋肉部分のトレーニングも少しずつ始めてもいい年齢かなとは思います。
それがすぐにタイムにつながらなくても、柔軟性をきちんと確保したうえで、走動作に使う部位を少しずつ鍛えていく。しなやかさとストレングスをバランスよく組み込んでいくようなことは、今後に向けても大切な部分です」
ドルーリーは、中学時代には自分で練習メニューを考えていたという。自分で考える習慣を身につけたうえで現在は顧問の先生とのやり取りから、そうした柔軟性やストレングスの部分もクリアしていくのではないだろうか。
2 / 3