箱根駅伝中継車のキツイ仕事内容 大人用オムツやのど飴を準備 乗車する渡辺康幸は「おかげさまで一度もピンチになったことはない」 (2ページ目)

  • 佐藤俊●文 text by Sato Shun

 駅伝が進行する中、時々、中継車の中の様子が放送されたりするが、ずっと後ろ向きで、かなり狭い様子がうかがえる。

「中継車の中は上の窓が開いているので寒いですし、狭いです。アナウンサーと2人でいるため余裕はなく、足場には非常時のためにいろいろなものを入れているリュックを置いているんですけど、資料もあってけっこうぐちゃぐちゃです。最初から最後まで後ろ向きで中継していますが、それで車酔いするとか、気持ち悪くなることはないですね。スピードがゆっくりですし、坂の上り下りも問題ないです。むしろ、一番いい特等席でトップを走る選手の姿を見られるので、ワクワク感が大きいです」

 渡辺監督の言葉は、選手に対するリスペクトとやさしさに満ちている。自身が箱根駅伝を走り、この大会で育ててもらったという思いから恩返しをしたい気持ちが強く、元選手として選手の気持ちが痛いほどわかるからだ。

「僕が話をする際の基本的なスタンスは、できるだけ平等な解説をするということです。箱根を走る選手をほめたたえたい、応援したいという気持ちがあるので、選手をけなしたり、見下す発言はしません。また、陸上の専門用語はできるだけ使わず、わかりやすい言葉で話をするようにしています。とにかく言葉はすごく注意していますね。今の時代は、SNSがあるので、ちょっとでも変なことを言うと、すぐに炎上してしまうじゃないですか。それは本意ではないので」

 それでも揚げ足を取るように批判的な声をつぶやく人はいる。個人的な感想だが、渡辺監督の解説はきわめてニュートラルで、「なるほど」と合点がいくことが多い。また、解説が心地よく感じるのは、中継車のアナウンサーとの呼吸が合い、ムダ話がなく、必要な情報を必要なタイミングで解説してくれるからだろう。

「今、中継車は蛯原哲(日本テレビのアナウンサー)さんと組んでいるんですけど、すごくやりやすいですね。大事なシーンではいきなり振るのではなく、『渡辺さん、最後はどういう言葉で締めますか』と事前に話をしてくれます。細やかな気配りがあるので僕は信頼してついていっています(笑)」

 絶妙な掛け合いに面白さを追求する必要はなく、目の前の事象を的確にとらえて、明確な言葉で伝えることが求められる。解説をする以上、話す力は必要だと渡辺監督は感じ、サッカーや野球、他の駅伝の解説なども参考にしている。

「スポーツ中継や女子の駅伝などを見て、どういうことを話しているのかなとか、どういうことを言うと心に響くんだろうなとか学んでいます。僕が好きなのは、ゴルフの青木功さんの解説です。経験からくる予測や技術的な視点が深いし、わかりやすいんですよ。自分もこういう話ができたらと思っていますが、まだまだ経験が必要ですね」

 7年も中継車に乗っていると、いろんなことが起こる。

 箱根駅伝はCMが長く流れることが多いが、その際、渡辺監督は中継センターの瀬古さんと話をすることが多いという。そこでカフ(自分のマイクの音声をオン、オフに切り替えるもの)をオンにして、CM終了ギリギリまで話をしているとついオフにするのを忘れてしまうこともあった。
 
「瀬古さんの話が面白いので、そのまま喋っていると油断してCM明けにカフをオフにするのを忘れしまうんです。世間話や余計なことを話したのがそのまま放送されたことはありませんが、オンにしたままにして、焦ってオフにしたことが何度かありました」

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