MGCファイナルチャレンジの展望 大迫傑、鈴木健吾、細田あい、鈴木亜由子......パリ五輪マラソン代表の最後のひと枠は誰の手に? (3ページ目)

  • 佐藤俊●文 text by Sato Shun

【鈴木健吾ら有望選手も巻き返しに】

 MGCファイナルチャレンジは、前回以上に豪華な顔触れからして相当ヒリヒリした戦いになるのは間違いない。MGCを棄権し、アジア大会に出場した池田耀平(Kao)は出場を表明している。また、今回35キロから先頭で引っ張った6位の堀尾謙介(九電工)、8位の大塚祥平(九電工)も赤﨑の快走に刺激を受け、ファイナルに挑戦する意欲を見せている。

 12キロで途中棄権して次に備えた日本記録保持者の鈴木健吾(富士通)も一山麻緒(資生堂)と夫婦でパリ行きを決めるべく、万全を期して出場するだろう。同じく15キロ手前で途中棄権したブダペスト世界陸上組の其田健也(JR東日本)、28キロ付近で転倒して途中棄権となった細谷恭平(黒崎播磨)も巻き返してくるはずだ。

 また、直前に足を痛めて3日間休み、「最初からついていけなかった」と苦笑した山下一貴(三菱重工)は、ブダペスト世界陸上で40キロ地点で5位にまで順位を上げるなど今、一番乗っている選手だ。万全でスタートラインに立った場合、他の選手にとって大きな脅威になるのは間違いない。さらにレース後、悔し涙を流していた西山雄介(トヨタ)、今回のMGCで35キロまで先頭を走り、苛烈な2位争いを演じた川内もいる。もしかすると、新星がいきなり飛び出してくる可能性もある。

 男子の指定試合は、福岡国際マラソン(2023年12月3日)、大阪マラソン(2024年2月25日)、東京マラソン(2024年3月3日)で、選手はいずれかに出場し、1枚の切符を賭けて戦う。高速コースの東京マラソンにエントリーが集中しそうだが、果たして誰がパリの凱旋門を走ることになるだろうか。

 女子は、細田に加え、4位に入った加世田、12位に終わってゴール後に泣き崩れた鈴木亜由子(日本郵政G)、寒さで失速した前田穂南(天満屋)は、「次こそは」の気持ちで巻き返してくるだろう。力強い走りを見せた松下菜摘(天満屋)はさらに強くなっていきそうだ。また、体調不良で欠場した佐藤早也伽(積水化学)、故障で欠場した松田瑞生(ダイハツ)も出走するはずだ。特に松田は4年前、ファイナルチャレンジの大阪国際女子マラソンで2時間21分47秒で優勝し、ラスト1枚の切符を手中に収めたかに見えた。だが、名古屋ウィメンズで一山がその記録を破り、東京五輪の内定を決めた。パリが五輪挑戦の最後のレースと決めているので、どんなレースを見せてくれるのか期待が膨らむ。対象レースは、大阪国際女子マラソン(2024年1月28日)、名古屋ウイメンズ(2024年3月10日)で、選手はこれから選択するが、いずれにせよ前回同様、激アツな争いになるのは間違いない。

 レース後、一山は、「MGCから解放された」とホッとした表情を見せていた。人生を賭けたレースに臨むプロセスで感じるプレッシャーやストレスがいかに大きいか、一山の言葉が物語っている。男女ともに3位以下の選手はそういった中、数か月かけて調整し、もう一段ギアを上げてレースに臨むことになる。最後の一枚の切符を賭けて、選手が集うMGCファイナルチャレンジは、きっと想像しえない胸アツのドラマが生まれるに違いない。

プロフィール

  • 佐藤 俊

    佐藤 俊 (さとう・しゅん)

    1963年北海道生まれ。青山学院大学経営学部卒業後、出版社を経て1993年にフリーランスに転向。現在は陸上(駅伝)、サッカー、卓球などさまざまなスポーツや、伝統芸能など幅広い分野を取材し、雑誌、WEB、新聞などに寄稿している。「宮本恒靖 学ぶ人」(文藝春秋)、「箱根0区を駆ける者たち」(幻冬舎)、「箱根奪取」(集英社)など著書多数。

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