MGCファイナルチャレンジの展望 大迫傑、鈴木健吾、細田あい、鈴木亜由子......パリ五輪マラソン代表の最後のひと枠は誰の手に? (2ページ目)

  • 佐藤俊●文 text by Sato Shun

【大迫と細田が一歩リード】

 細田あいは、強気のレースを展開した。

 23キロ過ぎに一山と前に出ると並走しつつ、時々に前に出るなど、一山にプレッシャーをかけて走った。だが、33キロ付近で一山が前に出て、差をつけられると36キロではうしろから来た鈴木優花と加世田梨花(ダイハツ)の3、4位グループに吸収された。それ以降、前を行く鈴木と一山に追いつけなかった。

「気持ち的にはついて行きたかったんですけど、雨で体が冷えて動かない状態でした。我慢できていれば最後にもう一度、勝負を仕掛けられるタイミングがあったと思うんですけど、追いきれなかったのは自分の実力かなと思います」

 3年前、細田はコロナ禍もあり、引退を決めるほど追い込まれた時期があった。だが、「お前の走りをまだ見ていたい」と恩師や両親に言われ、周囲の期待と自分の走りを求められることで引退を撤回した。それ以来、「手が届くチャンスがあるなら」とパリ五輪の切符を獲得するために努力を重ねてきた。ところが、もともと「怪我が多い」と語るように、今回も8月は故障のためにほとんど練習が出来ず、スタートラインに立てるかどうかわからない状態だった。9月から強めのポイント練習を多めに入れて、急ピッチで仕上げ、MGC当日を迎えた。

「走り込みが夏合宿に足りていない分、どういった形で出るかなと思ったんですけど、最後までスタミナは問題なく走れました。今、やるべきことはやれましたけど、パリ五輪を目指していた以上、3位では喜べないです」

 ゴールした直後は涙に濡れていたが、時間が経つと覚悟を決め、凜とした表情でこう言った。

「自分の中ではファイナルチャレンジに向けて、もう一度、体を作り直そうと考えています。悔しいという気持ちをまだぶつけられる舞台があるので、そこでしっかりパリ五輪の代表権を取れるように準備をしたいです」

 細田は、レース後、すぐにMGCファイナルチャレンジの出場を明言し、パリ五輪の切符を掴む決意を表明した。

 男子3位の大迫、女子3位の細田は、MGCファイナルチャレンジを戦う上では、非常に有利な立場にいる。男女ともに残り1枠はMGCファイナルチャレンジ対象大会で、設定記録(男子2時間5分50秒、女子2時間21分41秒)をクリアした最上位の選手が代表となり、設定記録をクリアする選手がいない場合はMGC3位の大迫と細田が代表に選出されることになるからだ。

 男子では前回MGCで3位になった大迫は、MGCファイナルチャレンジの舞台となった東京マラソン(2020年)で2時間5分29秒と当時の日本記録で日本人トップとなり、五輪への出場権を獲得した。勝たなければいけないプレッシャーと周囲の過度の期待を感じていたのだろう。ゴールした瞬間、涙を流し、何とも言えない笑みを見せたのが印象的だった。

 今回も同様のドラマが繰り広げられることになりそうだ。

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