赤﨑暁がMGCに向けて克服した課題とは?「このままではパリ五輪はコテンパンにやられる」 (3ページ目)

  • 佐藤俊●取材・文 text by Sato Shun
  • photo by Kishimoto Tsutomu

【「このまま五輪に出たらコテンパンにやられる」】

 MGCに向け、赤﨑は勝つためにしっかりと準備をしてきたのだ。

 その成果が、40キロの手前付近から出た。

「小山さん、大迫さんが前に出た時は、限界が近くて無理だって思ったんですけど、そこから自分のリズムで走っていたら大迫さんが落ちてきたんです。そこでうしろにつかず、前に行った方が大迫さん的にはきついかなって思ったので前に出ました。上りは、しっかり練習してきましたし、そこで仕掛けていこうと思ったので、うまくハマったと思います」

 そう言って、会心の笑みを見せた。

 夏頃は、「まだパリ五輪で戦える力はないので、MGCでは何かひとつ自分のプラスになるレースにしたい」と語っていた。

 だが、夏からの3カ月で一気に力を引き上げ、パリ五輪の切符を掴んだ。

「今回、2位になり、パリ五輪出場の権利を得たので、少しは強くなったのかなと思いますが、レース展開を見てみると、自分は何もしていないんです。大迫さんや堀尾(謙介/九電工)さんが仕掛けていったうしろについただけですし、強い選手は自分で仕掛けて勝ち切ることができる。まだ、自分は強い選手ではないですし、このまま五輪に出たら多分コテンパンにやられると思うので、ここからこれまでとは違う練習をやっていかないといけないと思います」

 レース後、瀬古利彦日本陸連ロードランニングコミッションリーダーからは、「持ちタイムが(2時間)9分では世界では戦えない」と苦言を呈された。

 赤﨑は、そこは自己流でパリ五輪に向けて調整していくという。

「課題としては、自分でレースを作ることをやっていかないといけないですし、今回30キロ手前から腸脛靭帯付近が張ってきたので、さらに補強をして改善していかないといけないと思います。タイムについては、連戦が苦手で休まないと走れないので、持ちタイムは遅いですけど、自分のやり方でこのまま五輪に合わせて行こうと思っています」

 この日、チームメイトであり、後半に前に出て引っ張った堀尾は赤﨑から47秒遅れの2時間9分53秒で6位、尊敬する先輩であり、倒すべきライバルでもある大塚祥平は2時間9分56秒で8位と、10位内に3名の選手が入り、九電工はチームとしてもすばらしい結果を残した。

「九電工からの代表選手は、56年ぶりらしいですね。今回、大塚さんについては何とも言えないですが、堀尾さんのおかげで2位に入れた感じなので、ふたりに勝ったとは思ってないです。自分としては五輪の代表になっても下の選手だと思い続けると思うんです。自信がないわけじゃないですけど、何かひとつを達成したとしても満足することはない。五輪に行っても常に上を目指して、ずっと挑戦者としてやっていきたいと思っています」

 MGCでは先行する小山の背中を追い掛けたが、9秒及ばなかった。その悔しさを噛みしめ、今回以上に入念な準備をして、パリでは少なくとも何かしらの爪痕を残してくれるはずだ。

 そう思わせてくれるだけの走りと可能性を、赤﨑はMGCで見せてくれた。

著者プロフィール

  • 佐藤 俊

    佐藤 俊 (さとう・しゅん)

    1963年北海道生まれ。青山学院大学経営学部卒業後、出版社を経て1993年にフリーランスに転向。現在は陸上(駅伝)、サッカー、卓球などさまざまなスポーツや、伝統芸能など幅広い分野を取材し、雑誌、WEB、新聞などに寄稿している。「宮本恒靖 学ぶ人」(文藝春秋)、「箱根0区を駆ける者たち」(幻冬舎)、「箱根奪取」(集英社)など著書多数。

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