出雲駅伝で明暗を分けたルーキーたちの思い 箱根の主要区間を任せられる存在になれるか

  • 佐藤俊●文 text by Sato Shun
  • photo by SportsPressJP/アフロ

 出雲駅伝は、駒澤大学が圧倒的な強さを見せて優勝を果たし、大会2連覇を達成した。

 毎年、出雲駅伝は、各区間の距離が短いこともあり、各大学の有力ルーキーが出走、衝撃的なデビューを果たすケースが多い。今年は、例年よりもやや少ないものの1年生が駅伝ビューを果たした。

1年生ながらアンカーを任された早稲田大学の長屋匡起1年生ながらアンカーを任された早稲田大学の長屋匡起この記事に関連する写真を見る  一番期待が大きかったのが、1322995000m男子高校記録を持つ吉岡大翔(順大1年)だった。駅伝デビューとなる出雲駅伝では、重要な1区を任された。長門俊介監督も「夏前は連戦で少し疲れが見えたけど、今は好調でやってくれると信じています」と、絶大な自信を持って送り出した。吉岡自身も「調整の1週間前から調子が良くて、コーチや先輩からも『調子いいね』と言われていました」と、自分に期待しているところがあった。

 スタート当初は、その調子の良さが見えた。ポジションを前目に取り、走る姿からは「勝負するぞ」という気迫にあふれていた。

「最初は、先頭集団にいて、ペースが遅かったので、自分が引っ張っていくぐらいの気持ちでずっとついていったんです。でも、途中から......」

 3キロを超えてから異変が起きた。

「急に差し込みが起きて......。過去も差し込みはあったんで、ここまでひどくはなかったんです。今回はなかなか治まらなくて、そのままズルズルと落ちていってしまいました」

 4キロ地点で先頭を行く駒澤大、青学大、早大からどんどん離れていった。そのまま順位を落とし、トップの駒澤大と118秒差の10位で2区に襷を渡した。走力の問題というよりは差し込みによるペースダウンなので、この結果が吉岡の実力というわけではない。実際、レース後は、先輩たちからは「こういう日もあるよ。気にするな」と声を掛けられていた。

 だが、吉岡はまったく表情を崩さなかった。

「大学で初めての駅伝で、情けない走りをしてしまったので......。高校の時は、自分でいうものなんですが、5000mの記録を持っていて自分が一番だという自信を持ってレースに入れていたんです。大学でも5000mのタイムは良い方ですけど、それ以上の距離になるとまだうまく走れないんです。短い距離だとごまかしも効くんですけど、距離が長くなればなるほどごまかしが効かなくなってしまいますし、甘くない。長い距離への準備がまだ足りていないので、それをこれからしっかりやっていきたいと思います」

 大学駅伝の厳しい洗礼を受けたが、箱根駅伝については「自分が」という強い思いがある。

「自分は任された区間でちゃんと走りたいと思いますが、1区はもうこりごりです(苦笑)。自分は、誰かと競り合うというよりも単独走が好きなので、その自分の力を発揮できる区間で走りたいと思います」

 長門監督もその能力の高さは認めており、「主要区間を任せられる存在」と言い切る。次の全日本、そして箱根では出雲の経験を糧に、「大物ルーキー」と呼ばれるのに相応しい走りを見せてくれるだろう。

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著者プロフィール

  • 佐藤 俊

    佐藤 俊 (さとう・しゅん)

    1963年北海道生まれ。青山学院大学経営学部卒業後、出版社を経て1993年にフリーランスに転向。現在は陸上(駅伝)、サッカー、卓球などさまざまなスポーツや、伝統芸能など幅広い分野を取材し、雑誌、WEB、新聞などに寄稿している。「宮本恒靖 学ぶ人」(文藝春秋)、「箱根0区を駆ける者たち」(幻冬舎)、「箱根奪取」(集英社)など著書多数。

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