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やり投げ北口榛花がやってきた誰もやっていないこと 世界陸上6投目に秘められた自信 (2ページ目)

  • 折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi
  • photo by Nakamura Hiroyuki

【自らの意思で渡ったチェコでの武者修行】

 旭川東高時代は砲丸投げと円盤投げもやっていた北口だが、それほど本格的な技術指導は受けていなかったという。それでも、やり投げでは2年、3年とインターハイを連覇する実力を身につけていた。「やり投げなら世界一になれる」と思った北口は、専門種目にすることを決めた。

 日本大学入学後は右肘のケガや指導者不在で足踏みをしたものの、そこから北口が選んだ道は、海外のコーチの指導を受けることだった。2018年にフィンランドで開かれたやり投げの国際講習会で、チェコ人のデービット・ケセラックコーチの指導に興味を持ち、メールを送って指導を頼み込んだ。

 そのケセラックコーチとの関係性も東京五輪を終えた3年目あたりからは、指導を受けるだけではなく、本気で何でも言い合える形に変化してきたという。それは北口が心から「強くなりたい」と思う熱量が高くなってきたからだった。そこからは急激に力をつけて記録も伸ばし、世界最高峰のダイヤモンドリーグでも通算4勝と実績を積み上げた。

 そして、さらなる進化を目指して助走スピードを上げようとした今季。シーズン初戦の織田記念陸上で、世界陸上代表内定となる参加標準記録突破の64m50を投げながらも、6月の日本選手権は59m92で2位になるチグハグしたところもあった。だが、そのあとチェコに戻ってからは、ケセラックコーチの下でここまで順調に仕上げてきた。

 優勝後、ここまでの道のりを北口はこう振り返った。

「つらいことはいっぱいあったけど、本当に世界で1番になれると信じてこの種目を選んでよかったと思います。チェコにも自分が好きで行っているけど、日本とは時差もあるし、ご飯も違うし、友達も家族もいないのですごく寂しくなる時もあったんです......。でも今こうやって、チェコでお世話になっている人たちが(ブダペストに)応援にきてくれて。そのなかで金メダルを獲れてすごくうれしいので、2年後の世界陸上東京大会では日本でお世話になっている人たちの前で結果を出せたらいいなと思います」

 本物の強さを世界陸上優勝という形で体現した今、見えてきたのはパリ五輪の金メダルや世界陸上の連覇だ。そして70m台の記録や、72m28の世界記録更新へと夢は広がる。

「誰もやっていないことを自分で選んでやりましたし、誰もできなかった結果にたどり着けてうれしいなと思います」

 自らの意志と積極的な行動で、練習拠点をチェコに移すなど、日本人やり投げ選手としては誰もやったことがないことを実行し、常に新しい道を切り拓いてきた北口。世界陸上という大舞台で得た、大きな自信を手に次のステージへ突き進む。

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