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「なぜ義務感に追われながら走っているのか」マラソン秋山清仁は動画から刺激 MGCは「テレビに長く映ってアピールしたい」 (3ページ目)

  • 佐藤俊●文 text by Sato Shun
  • photo by 日刊スポーツ/アフロ

【駅伝の予選落ちがマラソンを本格化させたきっかけ】

 しかし、駅伝男で、駅伝にこだわってきた秋山がなぜマラソン、そしてMGCに出場することに前向きになり、結果を出すことができたのだろうか。

「マラソンに前向きになったのは、2021年です。駅伝の中部予選で負けて、その年のニューイヤーを走れなかったのが耐えられなかったんです。自分のアイデンティティが揺れるというか、会社にも申し訳なかった。違う形で会社に貢献するためにはマラソンしかない。マラソンを走るからには注目され、話題になるMGCに出なきゃいけない。練習はそれまでは最低限やって結果が出ればと思っていたのですが、駅伝に出られないモヤモヤ感を払拭しようと長く走っていたら頭がすっきりしてきました。気がついたら2時間、3時間とか自分の趣味みたいに走っていて、それで身体がマラソンに向きになり、結果に結びついてきたのかなと思います」

 走る距離は劇的に伸びた。以前は月間700から800キロ程度だったが、1000キロを超えるようになった。また、YouTubeで市民ランナーがボリュームのある練習をこなしてマラソンを走ったり、トレイルランナーが山を走ったりする姿を見て、「みんな走ることを本当に楽しんでいる。お給料をもらいながら走る時間を与えてもらえる自分はこんなに恵まれているのに、なんで義務感に追われながら走っているんだろう......。この人たちよりも楽しんで走ってみよう」と刺激を受けたことも影響した。

 今はマラソンに集中し、パリ五輪を目指している。

 東京五輪のマラソンはテレビで見ていた。全体のペースが早く、しかも30キロ過ぎからのキプチョゲのペースアップを見て、「それがないと世界と戦えない」と思ったが、同時にこういう選手と走ってみたいと思った。

「五輪で国を背負うとか、どう戦うのかとかのイメージは全然できないんですけど、パリを走ったら楽しいだろうなっていうのはありますね。その感覚は、僕が高校生や大学1年の頃、箱根の6区を走ることをイメージしていた感覚に近いんです。ひと昔前のように五輪に出ないとダメだと言われると心が折れてしまうと思うんですけど、いろんな人にパリに連れてけよーと笑いながら言われることが、今の僕の原動力になっています」

 パリの街を走るのには、10月15日のMGCに勝ち、2位以内に入らなければならない。現在、62名の出走が予定されているが、秋山は選手の持ちタイムをランキング表にしているという。

「タイムを見ると、自分より早い選手が多いですし、以前だったらそれで不安になっていたと思うんです。でも、今は、この人たちと一緒にマラソンを走ったらどうなるんだろうって、ちょっとワクワクしていますね。レースは、とにかくテレビに一番長く映ってアピールしたいです。大迫(傑・ナイキ)さんの近くを走っていたら目立つのかなぁと考えたりしますが、福岡国際もそんなことを考えて走っていたら順位がついてきた。MGCは2位以内に入るのが目標ですが、それを意識しすぎず、気がついたら誰よりもテレビに映っていた、そんな走りができたらと思っています」

 箱根駅伝では坊主頭で6区を駆け下り、テレビ中継を単独ライブ化した。その時のように、秋山はMGCでもテレビ画面を独占することができるだろうか──。

著者プロフィール

  • 佐藤 俊

    佐藤 俊 (さとう・しゅん)

    1963年北海道生まれ。青山学院大学経営学部卒業後、出版社を経て1993年にフリーランスに転向。現在は陸上(駅伝)、サッカー、卓球などさまざまなスポーツや、伝統芸能など幅広い分野を取材し、雑誌、WEB、新聞などに寄稿している。「宮本恒靖 学ぶ人」(文藝春秋)、「箱根0区を駆ける者たち」(幻冬舎)、「箱根奪取」(集英社)など著書多数。

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