世界陸上の男子競歩で日本人がワンツーフィニッシュ。山西利和は意表を突くスタートに「スローペースは嫌だった」 (2ページ目)

  • 折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi
  • 新華社/アフロ●写真

 こう話すように、10kmを過ぎてからは、それまでの4分03秒を一気に3分51秒まで上げて集団を10人以下に絞ると、6人になった13km過ぎには再び仕掛けた。今年3月の世界競歩チーム選手権では山西と池田向希(旭化成)に次ぐ3位になっていたサムエル・キレリ・ガシンバ(ケニア)や、19年世界選手権4位のペルセウス・カールストレーム(スウェーデン)に揺さぶりをかけて17kmからはペースを3分50秒までさらに上げて、18km手前から東京五輪2位の池田とのマッチレースに持ち込んだ。

 そして、そのハイペースの競り合いのなかでも、山西は状況を冷静に分析していた。

「うしろの状態を見たら、ガシンバとカールストレームがけっこう止まっていたので『これなら追いつかれないな』と安心し、『じゃあこのふたりでどう戦うか』というところでした。池田くんも集団のなかでけっこう力を溜めていたと思ったので、自分の余裕度やフォームの余裕度を確認しながら、最後は思いきっていこうと考えました」

 池田もまた、しっかり勝機を伺っていた。

「レース序盤から山西さんがああいう展開をするとわかっていたので、それに合わせるのではなく自分のスタイルを貫き、ジワリと追いついてトータルで勝てばいいと判断していました。酒井瑞穂コーチと『10秒以上は離されたくない』と話していたので、それを念頭に置きつつ、周りを利用しながら平常心で行こうというプランでした」

 フォームの自信もあり、東京五輪より状態もよく臨めたという池田は、計算どおりに山西に食らいついた。そして18km手前から前に出たのも、勝機があると考えたからだった。

「山西さんがラスト3kmから一気にペースを上げたのにも対応でき、そこでペースが落ち着いたので『ここはチャンスかな』と思って前に出ました。でもそこで、少しでも離すための瞬発的なスピードを出せなかったので、中途半端になってしまいました。今回は途中、途中でペースアップをして、自分のやりたいレースをした山西さんには完敗だったかなと認めざるを得ない結果です」

 前に出て、最終周回に入った山西が、池田の数十m先の折り返しで仕掛けることはわかっていたが、対応できなかった。結果は山西が1時間19分07秒で優勝し、池田は7秒遅れの2位。そして3位には、ガシンバに競り勝ったカールストレームが入った。

 5位までが30秒以内という厳しい戦い。日本陸連の今村文男・競歩シニアディレクターは「今回と同じように、今の世界の20kmは、毎回僅差の戦いになっている厳しさがある」と話すが、そのなかで自分のレースをして勝ちきった山西の強さは格別と言えるだろう。

「今回は連覇というのもあったけど、その一方で東京五輪のリベンジという気持ちもあって、本当にいろんな感情を抱えてのレースでした。でも横綱相撲かといえば、まだ足りないものがあると感じています」

 こう話す山西は、「東京五輪が終わってからは、自分のなかで新しいフェーズに入ったというか、また違う自分のストーリーを歩み始めていると思うし、それを楽しめているのかなと思います」と話す。

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