ドラマ『陸王』に通じる日本のシューズ職人魂。あるスポーツ店の物語 (4ページ目)
ハリマヤはさらに革新的な製品で陸上界を驚かせた。
1982年に発売した「カナグリ ノバ」は、世界最軽量の140g。しかし、フルマラソンを走れば、ほぼ1回で履きつぶしてしまうという、耐久性を度外視したシューズだった。
「35年前に、こんな画期的な発想が他社にありますか。一発勝負のシューズなんて、海外ブランドにはこんなもの作れませんよ」(千葉)
時はまさに日本にジョギングブームが到来し、アディダス、プーマ、ナイキなど、海外ブランドのシューズが巷に溢れ出す頃。大柄な欧米人向きに作られた底の厚いソールのスニーカーがファッションとして流行った時代に、ハリマヤは極限まで底を薄くした、究極のマラソンシューズ作りを追求するのだった。
■ハリマヤの精神を受け継ぐ凄腕シューフィッター■
あるとき、東京のハリマヤ本社に、大阪の陸上競技シューズ専門店の女店主が現金を持って買い付けにやってきた。1970年頃の話で、関西の学生ランナーには一風変わった店として知られた「オリンピアサンワーズ」の上田喜代子だった。
オリンピアサンワーズの店内には売り物のシューズは陳列されておらず、ひとり店番をしている上田は、お客がほしいというシューズを売らないことで有名だった。客が希望のシューズを告げると、こんな風に返される。
「記録なんぼや? そんなタイムじゃ、あんたには、まだそのクツは早い!」
そういって上田は自分が客に見立てたシューズを奥から出してくる。色が気に入らないとか、他のメーカーがいいとか、客に文句は言わせない。
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