【陸上】五輪の夢を断たれた為末大。その心中を語る

  • 折山淑美●文 text by Oriyama Toshimi
  • photo by (c)Wataru NINOMIYA/PHOTO KISHIMOTO

1台目のハードルで転倒し、為末大はロンドンへの夢を断たれた1台目のハードルで転倒し、為末大はロンドンへの夢を断たれた 大会前に「競技生活はロンドン五輪限り。その挑戦の道が潰いえたら、そこで引退する」と表明していた為末大(CHASKI)。その終わりは、あまりにもあっけなかった。

 大会初日の6月8日、トラック2種目目の男子400mハードル予選第2組。5レーンの為末は、スピードに乗ってレースに入ったかのように見えた。だが、1台目のハードルの手前で少し躊躇(ちゅうちょ)すると、ヒョイッと出した右足でハードルを踏みつけて倒し、そのまま前に倒れ込んで1回転した。

「予選は50秒5くらいでいって、準決勝は49秒台後半。48秒台を出している岸本鷹幸(法大)が強いのはわかっていたから、決勝では(A標準の)49秒50を切って2位でロンドン、という構想だった。でも、ピストルが鳴った瞬間に全部ふっ飛んで真っ白になり、48秒台前半の感覚で突っ込んでしまって......。しかも走りに伸びがなく、歩数が多くなってしまい、普通なら左足のところで右足を出していた」

 準決勝や決勝を有利に戦うためには、上位に入って次のラウンドで中央のレーンに入らなくてはいけない。冷静に戦うつもりだった為末の心には、そんな思いも忍び込んでいたはずだ。それが最後の最後で、競技人生初の1台目転倒という事態を引き起こした。

 しばらく茫然としていた為末は、フッと目覚めたように再び走り出した。第3コーナー過ぎで、故障を抱えスピードを上げられずにいた7レーンの成迫健児(ミズノ)に追いつき、しばらくはふたりで競り合う。ともに47秒台の記録を持ち、一緒に世界の頂点を狙った者同士が最下位で競り合う皮肉な展開。最後は力尽きた為末が遅れ、57秒64でゴール。自己記録には10秒近く及ばないタイムだった。

「初めての五輪だったシドニーで9台目のハードルで転倒した時、一応ゴールはしたけどあきらめていた。でも、そういうことをやった自分を悔いる思いがずっと残っていたから、最後まで全力で走るのが大事なことだと思った」

 為末はゴールを目指して走り出した理由を、こう語る。その表情には悔しさとともに、スッキリしたような気持ちも浮かんでいた。

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