2020.07.03

車いすラグビーで世界一になるため、
池透暢は主将の役割を「捨てた」

  • 荒木美晴●文 text by Araki Miharu
  • photo by AAP Image/AFLO

東京五輪&パラリンピック
注目アスリート「覚醒の時」
第32回 車いすラグビー・池透暢
車いすラグビー世界選手権(2018)

 アスリートの「覚醒の時」――。

 それはアスリート本人でも明確には認識できないものかもしれない。

 ただ、その選手に注目し、取材してきた者だからこそ「この時、持っている才能が大きく花開いた」と言える試合や場面に遭遇することがある。

 東京五輪、そしてパラリンピックでの活躍が期待されるアスリートたちにとって、そのタイミングは果たしていつだったのか......。筆者が思う「その時」を紹介していく――。

世界選手権で初優勝を果たし、仲間たちと喜び合う池透暢(写真左) 2018年8月、車いすラグビーの世界選手権で日本代表が悲願の初優勝を遂げた。決勝で下した相手はディフェンディングチャンピオンにして、パラリンピック2連覇中のオーストラリア。その"王者"の背中を追い続け、乗り越えた者だけに許された"世界一"の景色を、日本の選手たちは噛みしめた。

 実は、この大会で栄光につながる重要な試合があった。それは、チームを率いるキャプテンの池透暢(ゆきのぶ/日興アセットマネジメント)にとっても、「覚醒」を実感することになったライバル・アメリカとの準決勝の試合だ。

 予選ではオーストラリアに13点差をつけられ、一度敗れている日本。準決勝に駒を進めたものの、ここでアメリカに勝たなければ決勝でオーストラリアにリベンジすることができない。だが、相手のアメリカも世界選手権を4度制した強豪だ。リオパラリンピックの直接対決でも延長戦の末に逆転負けを喫するなど、ここ一番という場面で日本の前に立ちはだかる宿敵である。

 日本は、予選でオーストラリアに大差で負けて自信を失いかけているところだったが、モチベーションを上げるために準決勝の直前にミーティングを開き、選手12人全員で日本チームの優れているところや強みを話し合った。その裏で、池の"個人"としての覚悟は、また違うところにあったという。

「キャプテンという役割を、捨てたんです。この試合は、一人の選手としてのプレーにフォーカスする。そう決めていました」