2020.06.29

上地結衣が「信じられない」と喜びの涙。
全仏OP初制覇で観客を魅了した

  • 荒木美晴●文 text by Araki Miharu
  • photo by Getty Images

東京五輪&パラリンピック
注目アスリート「覚醒の時」
第31回 車いすテニス・上地結衣
全仏オープンテニス(2014年)

 アスリートの「覚醒の時」――。

 それはアスリート本人でも明確には認識できないものかもしれない。

 ただ、その選手に注目し、取材してきた者だからこそ「この時、持っている才能が大きく花開いた」と言える試合や場面に遭遇することがある。

 東京五輪、そしてパラリンピックでの活躍が期待されるアスリートたちにとって、そのタイミングは果たしていつだったのか……。筆者が思う「その時」を紹介していく――。

2014年、全仏オープンシングルスで初優勝を飾った上地結衣 東京五輪・パラリンピックの開催が決まった翌年の2014年は、当時20歳の車いすテニスプレーヤー・上地結衣(三井住友銀行)の成長が強く印象に残る一年だった。

 そのなかでも、6月の全仏オープンでの活躍は忘れられない。2年前から車いすテニスのグランドスラムに出場するようになった上地は、この大会のシングルスで屈強なライバルを倒し、日本人女子選手として初めて頂点に立ったのだ。

「魔物が棲む」とも言われるローランギャロスのクレーコートは、車いすを漕ぐほど轍が深くなり、車輪がひっかかることもある。さらにボールは高く弾み、座ってプレーする車いすテニスプレーヤーにとって、チェアワークとショットのコントロールがより難しくなるサーフェスだ。

 だが、上地はコートの上で誰よりも輝きを放った。身長143cmながら躍動感あるスピーディーな動き、とくに決勝で見せた戦略的かつ粘りのあるプレーは観る者を惹きつけた。相手はロンドンパラリンピック銀メダリストのアニク・ファンクート(オランダ)。上地と同じサウスポーで、体格を生かしたパワフルかつ安定したストロークが持ち味の強敵だ。