体操・橋本大輝を育てた名伯楽が語る指導論 「スポーツと人間教育を一緒にしてはいけない」 (3ページ目)
【橋本大輝は高校生のように練習していた】
だから市船では、(結果が)よくても悪くても、言わないようにしないといけない。何のために練習するのか。試合で結果を出すためにやっているのに、先生に怒られないために練習をやっている感じになっていてはダメだからです。本当に勝負強くなるのは、『なぜ失敗したの?』と聞かれない子です。誰も失敗しようと思ってやっていないんですから。一生懸命やっているのに、追い込んじゃダメです。試合で失敗したときには、怒るのではなくて、その原因が何かを客観的に伝えて、絶対に感情的になって言わないことです。
僕の指導モットーでは、そこを一番意識しているのかな。練習のなかで気を抜いた失敗があれば、その時は怒りますけど、心を込めてやって失敗しているときは、客観的な原因を指摘します。流すところは流しますしね。"試合は練習のとおり、練習は試合のとおり"とよく言われますけど、そんなことはない。試合は特別だから、我々が言う『試合筋(しあいきん)』が出る。だからそんなに失敗は気にしなくていいよと、言っています。とにかく、指導者の自己満足でやらせないことです。冷静に見て、指導していくことが大事です」
もうひとつ、神田コーチが強調したのは、チャレンジすることの重要性だった。思えば橋本は現在もチャンレンジを続けている。
「ケガの危険があるので、試合ではふだんできないことはやってはいけないと言っていますが、でも、ひとつもチャレンジしないのは寂しいから、1種目にひとつくらいはあっていい。特にジュニア期はそうです。大学生になると技を習得するエネルギーがなくなってしまうので、そのバランスが難しいです。かといって、技ばかりやるとまとまらない演技になってしまうので、技と演技を両立できないといけないですし、どっちもやらないと上には行けないですからね。
最悪なのは、"失敗しなければいいや"という体操になってしまうことです。失敗しないことは大事なんですけど、体操には非日常的な競技性があり、それとは正反対の美しさも兼ね備えてあり、ジュニア期で大切なのは、このふたつをちょっとずつ妥協しながら、失敗しない演技を作り上げていくことなんです。全部を完璧にしようとするとリスクを背負いますから。正しくやって失敗しない体操、しっかりした技をやってなおかつ美しさもある体操。そう促していく感じです。そんなに難しいことではないんですけど、高校の時には結果を出さないと自信もつかないですけどね。
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