東京五輪プレイバック:体操・橋本大輝が個人総合制覇 新エースとしての地位を築く (2ページ目)

  • 折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi

【個人総合は接戦を制して頂きに】

 水鳥監督は、団体戦をこう振り返った。

「もともと262点台が優勝ラインになると思っていたので、我々が263点を出せば確実に勝てると合宿でも話していたが、そのとおりの試合になった。ノーミスができればロシアや中国に勝てると思っていたので、その0.1点を拾えなかった悔しさと、選手たちはよく頑張ったという気持ちが頭のなかでグルグルしている感じです」

 橋本に関しては、「ここまでできれば、もしかして逆転できるかもしれない、と思うような15点台の得点を出してくれた。最後の最後にそれをやることができるのは、本当の強さを持っている選手にしかできないこと。最後を彼に託して本当によかったなと思う。近いうちに世界チャンピオンになる可能性は、かなり高いと思える演技をしてくれました」と評価した。

 その橋本は、「鉄棒は一番失敗しやすい種目ではあるけど、僕のなかでは一番失敗しない種目。とても自信があって、いつもどおりにやれば絶対に通せると思ったし、ミスをするような感覚はなかった」とコメント。狙っていた金メダルは逃したが、自身の力を存分に出し尽くした演技を披露し、もはや「やりきった」という思いが強かった。

 それでも、個人総合の当日になると、再び自信と集中力が蘇ってきた橋本。最初のゆかは14.833点を出し、あん馬では全選手中唯一15点台に乗せる15.166点を出してトップに立った。

 次のつり輪では技がひとつ認定されず2位になり、跳馬は着地で0.1点減点されるミスも出て4位に落ちたが、平行棒では予選と同じ15.300点をマーク。その時点で、トップに立ったシャオ・ルーテン(中国)に0.467点差、2位のナゴルニーには0.133点差の3位だったが、最後の鉄棒は上位ふたりが得意にしていないことを考えれば、想定どおりの展開だった。

 シャオが88.065点で暫定トップに立ったなかで、最終演技者として迎えた鉄棒。橋本は堂々たる演技を見せた。

「点数を見れば14.6点をとれば優勝だろうと考えていました。最終演技者で逆転がかかるプレッシャーはあったが、ここで楽しんで演技を通せたら金を獲れると思ったので、一つひとつの大車輪を大きくした鉄棒の演技をしました。最後の着地を決めきれなかったのは悔しいけど、終わった瞬間はすごく勝った感がありました」

 橋本の得点は14.933点で、合計は88,466点。3位までが88点台に乗せるハイレベルな戦いを制した。後日、その瞬間を次のように振り返る。

「失敗すれば銅、成功すれば金か銀という、いろいろなメダルの色が僕の演技で決まってしまうけど、僕自身は金メダルを目標にしていました。でもあの時は、記録に残るより記憶に残る演技をしようと決めていたので、最後はメダルの色に関係なくやってきたことをすべて出しきるというか。そういう気持で挑んで、最後は本当に完璧な演技ができたなと思います」

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