陸上・田中希実の東京五輪プレイバック 5000mを足がかりに1500mで日本女子史上初の入賞「中学生の頃のようにやる気の塊のようなレースがしたかった」 (4ページ目)

  • 折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi

【パリ五輪ではさらなる上のステージへ】

 こう話す田中だが、初めての五輪で得たものは大きかった。

「五輪自体が夢で、そのうえ1500mで出場するなんて、2018年は日本選手権でも予選落ちしていたくらいなので、夢にも思っていませんでした。でも去年くらいから意識するようになり、大きな舞台になると自分でも気持ち悪いくらいに気持ちが上がり、人格が変わったんじゃないかなと思うほどです。普段の私は物事を前向きにとらえられないすごくネガティブな性格で、後ろ向きのことばかり考えているけど、こういう大会になると物事を前向きにとらえやすくなる。(決勝進出を果たせたのは)本当に五輪という空気感に助けられたと思います。

 将来的に一度はマラソンを走ってみたいのですが、私はけっこう頭が固いところもあって、陸上といえば中学生で初めて出会ったトラックというイメージがあるし、そこでもっともっと記録を伸ばしたいというのがある。実業団で毎年駅伝に出て、またリセットしてというのを繰り返していたらトラックを追及しきれなくて遠回りになり、その部分を取り残したままマラソンの方に移行していくようになるんじゃないかなと思います」

 世界に通用しなかった日本女子中距離の歴史を見事に刻んでみせた田中の躍動だった。

 田中は、翌2022年には800m、1500m、5000mと日本女子では史上初の3種目でのオレゴン世界陸上出場を果たし、2023年のブダペスト世界陸上では5000mの予選で日本新記録(14分37秒98)、決勝では日本勢26年ぶりの同種目8位入賞を果たした。その間、プロ選手となり、ケニア合宿をはじめ海外のトップレベルの大会にも足繁く参加するようになり、世界のトップシーンでの存在感を増していった。

 現在、パリ五輪に向かう田中にとって、東京五輪は、自らの意志で選んだトラックへの挑戦の夢を、さらに大きく掻き立てるものでもあった。

著者プロフィール

  • 折山淑美

    折山淑美 (おりやま・としみ)

    スポーツジャーナリスト。1953年、長野県生まれ。1992年のバルセロナ大会から五輪取材を始め、夏季・冬季ともに多数の大会をリポートしている。フィギュアスケート取材は1994年リレハンメル五輪からスタートし、2010年代はシニアデビュー後の羽生結弦の歩みを丹念に追う。

100mハードラー田中佑美 メイクアップphoto&競技写真

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