陸上・田中希実の東京五輪プレイバック 5000mを足がかりに1500mで日本女子史上初の入賞「中学生の頃のようにやる気の塊のようなレースがしたかった」 (2ページ目)

  • 折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi

【予選敗退も自己ベストで吹っきれる】

 田中が東京五輪で決勝進出と8位以内の入賞を狙っていたのは、5000mだった。だが競技初日の7月30日の予選では、廣中璃梨佳(日本郵政グループ)が積極的に飛ばしてハイペース(1000m通過3分00秒)になった第1組では10位までが14分台という結果に対し、田中の第2組は1000mを3分03秒で入るスローな展開に。

 4800mまでは集団の中で順位での決勝進出条件(記録に関係なく組5位以内)をキープしていたが、ラスト200mで突き放されて6位。あえて後半勝負に徹した手応えのあるレースを展開し、記録も14分59秒93の自己ベストだったが、記録で決勝に進める5番手に0秒38届かず(各組の6位以下は記録順)、予選敗退となった。

 これまでの世界大会なら、確実に決勝進出を果たせていた記録での予選敗退。気持ちは落ち込んだが、逆に、心の中にスイッチも入った。

「私は、その時々で手応えを感じないと次へ進めない性格です。ドーハ世界陸上の決勝を走り、東京五輪の5000mが代表に一番近く、成績も残しやすいのではないかと思い、準備を進めてきました。

 だから、予選落ちは悔しいですが、一方で、実力で負けたというより運で負けたなという部分があって。もし璃梨佳ちゃんと同じ組で走って自分だけが落ちたらすごく悔しかったと思うけど、まったく展開が違う組で落ちたので、負けたという気持ちがあまりしなかった。それが1500mに気持を切り替えられた要因だったと思います」

 1500mは、ポイント制の世界ランキングで条件を満たしての出場。世界のトップレベルは3分台で、田中にとって、当初は「出られればいい」という種目だった。

「1500mは、2019年は4分11秒50がベストだったので、世界で戦うイメージはありませんでした。ただ、昨年(2020年)日本記録を出してからは参加標準記録が見えてきたし、世界ランキングで出場権を得られるかもしれないとわかって貪欲になりました。(同じ1500mに出場し予選敗退の)卜部蘭さんもずっと日本女子初の五輪出場を目指していて、ライバルとしても競い合っていたので負けたくないというのもありました」

 5000mが予選落ちで終わったあと、周囲の人たちに「1500mをもう1本、楽しんで走ってきて」と声をかけられた。だがそれを聞き、「そこは1本じゃなくて、2本、3本にしていこう」と思うようになった。「誰も期待していないからこそ5000m以上に思いきり自分をぶつけられて、逆に本領を発揮できるはず」という気持ちになったという。

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