陸上・田中希実の東京五輪プレイバック 5000mを足がかりに1500mで日本女子史上初の入賞「中学生の頃のようにやる気の塊のようなレースがしたかった」 (3ページ目)

  • 折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi

【"やる気の塊"で1500mで快進撃】

 競技4日目の8月2日午前9時35分からの1500m予選。前の2組のトップが4分03秒台と4分05秒台で終えると、第3組の田中は最初からトップに立ち、前の組を3秒以上上回るラップタイムで800mまで集団を引っ張る、攻めの走りをした。そこからほかの選手に被せられたが2~3番手で粘り、最後は着順(組5着以内)で準決勝進出となる4位になり、記録も4分02秒33の日本記録を出した。

 迎えた準決勝は、「中学生の頃のように、気迫を最初から最後までまとわせた、"やる気の塊"のようなレースをしたい」と臨んだ。100m通過時にスッと2番手に上がると、400m通過後は先頭に立ち、800mは2分09秒1で通過。そこから5位まで下げたが、「ラスト100mはいつ抜かれるかと怖かったが、自分も止まっているが前の選手も止まっていたから最後まで抜く努力をしようと思って走った」と、着順での決勝進出となる5位を死守。記録も日本人未到の4分突破を果たす3分59秒19だった。

「五輪直前の7月に4分04秒台を出していたので『たぶん、自己新を出せば準決勝に行ける』と思っていたけど、自己新でも『まだいける』と思えたのが準決勝につながったと思います。

 大会前から父と『決勝に行くには"4分ギリ"が必要』と話していたので、準決勝で3分台を出さなきゃいけないとわかっていた。だから初めての3分台もメッチャびっくりしたわけではなく、ただただ全力疾走した結果という感じで実感はなかったです」

 2日後の決勝は、5000m、1万mと合わせた3冠を狙うシファン・ハッサン(オランダ)が200m過ぎから先頭に立ち、800mを2分07秒0とハイペースの展開にした。そのなかで1000mまで5番手だった田中は、激しいスパート合戦で粘りを見せて3分59秒95で8位入賞を果たした。

「途中では5位くらいはいけると思ったんですけど、どんどん抜かれたので甘くなかったですね。ゴールした時は何位だかわからなかったので、8位で名前が出たのでホッとしました。でも、ラスト400mだけでこんなに差がつくんだ、という悔しさもあって、今度はもっと真ん中以上でゴールしたいという、新しい気持ちが湧いてきました。

 ただ、決勝でさらにタイムを伸ばせたら、『いつでも3分台は出せる』という実感を得ることができたと思うので......。『決勝にさえ残れたら、あとはボロボロでもいい』と父と話していたけど、いざ決勝に残って『日本人初の決勝で日本中のみんなが見てくださるだろうな』と考えたら、どうでもいい走りをしてはダメだと思い直し、『最低限入賞はしなければ』と緊張もしました。準決勝のように伸び伸び走るという部分は少し薄れていたかもしれないのが、心残りでした」

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