葛西紀明が語るジャンプスーツ問題。公平性を求めるなら「事前の身体測定厳格化と+0cmにするしかない」 (2ページ目)

  • 折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi
  • photo by Yohei Osada/AFLO SPORT

【ジャンプスーツのルールに疑問】

 そう話す葛西だが、今季からのジャンプスーツのルール変更には疑問を持っているという。これまで男子は体のサイズの+2cmで、箇所によっては+3cmまで認められていたが、今季から女子と同じ+2~4cmに変更された。そのなかで日本勢は対応が遅れ、W杯前半戦は苦しんだ。小林陵侑が1月下旬のW杯札幌大会で復活したのも、帰国してカットを新しくしたスーツを着用し始めたからだ。

 長年やっている葛西も、ルール変更には翻弄されてきた。99年までの規定は生地の厚さのみで、12mmだったものが94年には8mm、98年には5mmと変更になったが、00年にはサイズの規定が始まり、最大部分で体のサイズの+10cm以内、02年には+8cm以内、06年には+6㎝以内となった。さらに13年には体のサイズと同じ+0cmになったが、サマー大会を終えて冬になると「(スーツの)消耗が激しいから」と+2㎝に変更。13年からは+2㎝は変わらないが、場所によって+3㎝となって昨シーズンまで続いた。

「最近は日本チームもスーツを作るノルウェー人にお願いしているので、前より(世界と)差はなくなっていたと思うけど、10年バンクーバー五輪までは相当やられましたね。当時は、ヨーロッパ勢が飛ぶ時には股下の部分を下げたり、腕も袖を引っ張ると付け根が広がって、ムササビのようにしているなんて全然わからなかったから。飛び終わったら、うれしくもないのにわざわざガッツポーズをして袖を見せる選手もいました(笑)。

 だから+0cmになって勝てるようになった時は、『公平なルールになれば俺たちは強いんだ。今までやられていたな』と思いました。そのあとの+2cmまではギリギリ公平だったけど、今シーズンは、部位による最大を+3cmから+4cmにしておかしくなりましたね。いろいろな抜け道を考える余裕があるから、それで飛んでいく選手も増えてくる。だから今度は、W杯札幌大会で一番下から2番目の第2ゲートからスタートしたように、ジャンプ台が追いつかなくなる。時速84km台の、ノーマルヒルのスピードでラージヒルを飛ぶことになってしまうんです」

 新しいジャンプスーツの形状などは、W杯組が収集してきた情報も共有できるが、それが選手全員に行き渡るには時間がかかって不公平感も出てしまう。

「ジャンプスーツを作るとしても、1着7~8万円で、下手したら10万円ほどかかるんです。僕らはまだ会社で作ってもらえるけれど、そうじゃない選手は辛くなる。それに作ってもらえる優先順位もあるから、手元に届いた時は型遅れにもなってしまうこともあります」

 葛西も今年は3~4着作ったというが、W杯を転戦している頃は開幕戦前から2着ずつ4回くらい新調し、世界選手権や五輪があればプラス4~5着くらい作っていたという。

「昨年の11月スロベニア合宿に行った時に、以前一緒に試合をしていたロベルト・クラニエッツが今はスーツを作っているので、『俺のスーツを作ってくれ』と頼んだんです。そうしたら作業場にズラッとスーツがあったので、スロベニアの選手たちは年間何本作るのか聞いたら各選手20本以上だと言っていました。やっぱりお金があって、毎試合ほぼ新しいスーツで試合に出られるから強いんだなと思いましたね」

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